えす、えぬ、てぃ

好きなものの話をしよう

深夜のおしゃべり

死んだような過ごし方をした週末だった。
予防接種を済ませ、お、ここ数回より随分楽じゃないか、と油断した夕方。スコン、と意識が落ちてそこからじわじわ熱が上がった。息も苦しいしあちこちが痛い。
念のため、と着けていたスマートウォッチを確認したら「37度」と表示されていて、あちゃあ、と思った。しかも、液晶を見ると頭がズキズキと痛む。
そもそも、副反応で抵抗してるんだから睡魔の一つや二つきてくれたらいいのに、夕方寝たでしょう、とばかりに目は冴えている。


何かを聞くか、と考えて、でもなんだか頭の痛み的に初めて聴くものは疲れてしまいそうだな、と思った。なんだか、そういう痛み方だったのだ。

こういう時初めて聴くラジオも良いけど何度も聴いたラジオ音源も良い。どちらかというと体調不良からくる不眠には、聞き慣れた音の方が落ち着くことが多いし、逆にぐるぐると考え込んでしまう夜は、初めて聴く放送に耳と頭を集中させた方がいい。そんな気がする。

 


「これを聴いて寝れなかったら諦める」
そんな音源がある。十分と少しのその音源を流しながら、初めの方で「ああ今日は無理だな」と悟った。身体のだるさが尋常じゃない。
体力が落ちたんだろうか。体調が悪い時ほど最近は眠れなくなる。
なので、副反応がじわじわ増していくなかで「たぶん無理だろうなあ」と思っていたら案の定、寝れないまま十分は終わっていた。

 


ならもう、開き直ってラジオをたくさん聞こうじゃないか。

 


「眠れない夜を眠らない夜に」とは星野源が作ったオールナイトニッポンのジングルである。
その言葉が心に沁みた時から、眠れない夜が嫌じゃなくなった。私の世界から、眠れない夜なんてものは消えたのだ。

 


そうして、その日は2022年10月に放送された、声優の中村悠一さん、ライターのマフィア梶田さんがゲストだった星野源オールナイトニッポンを聴くことにした。唐突にその回を思い出した私は、画面を細目で眺めながらスクロールして、再生する。笑い声と、聞きやすい声のおしゃべりが少し頭痛をマシにしてくれる。

 


 


私は、この回の放送が好きだ。オープニングトークも、それが伏線になったふたりが合流した時のトークも破茶滅茶なブロードウェイももちろんだけど、何より、私はリスナーからの今の仕事に就くきっかけへの中村悠一さん、マフィア梶田さんの答え、そしてそれへの源さんの相槌がたまらなく好きなのだ。

 

マフィア梶田さんのアニメやゲームというコンテンツへの思い、そして地獄でなぜ悪いへの思いを聴きながら昨日、暗い部屋の中でずっと考えていた。

 

毎日、吐きそうになりながら会社に向かい、仕事をしている。出来てるじゃん、なんて言われるけどいやこれ、すげえ血反吐吐きそうになりながらやってるんですけど?!と逆キレしたくなる。

 

だけど同時にそんな自分が情けなくもなる。こんなになるまでもなく、大したことやってないのに、どこにいっても苦しくて、生きるのがクソ下手な自分に嫌気がさす。転職すれば、なんてことじゃないのだ。仕事でも会社でもなく、問題はたぶん、私にある。私にはどうにも、この世界は向いてないことが多すぎる。

 

そんなことをくよくよと考えていたらある日気付いた。
そういや、私は、今まで生きていて「生きてるの向いてるなあ!」と思ったことがない。さすがにうんと幼い頃なら別だけど、それすら社会生活に馴染めず、幼稚園を脱走するような子どもだったし、きちんと物心がついた小学生中学年以降はずっと「なんでこんなに苦しいんだろう」と考えている子どもだった。
小中は、大人になったらいかに人と関わらずに生活をするかをずっと考えながら過ごしていたし、人と関わらずに好きな本、漫画、アニメに芝居を楽しむことができたら、どれだけ良いだろうってずっと本気で願っていた。
人との交流に抵抗がなくなったというか「こうすりゃいいのね」を覚えた高校、大学はもちろん、社会に出てからもそういえば私はずっと「苦しいなあ」と思っていたのだ。ただ、その苦しいを面白がることで乗り切り方を覚えただけで。

 


そんな子どもだったから、そりゃ、そうなのだ。
どんな仕事でも、会社でも、なんなら、そもそもそういうことから解放されても、きっと幾らかは苦しんで嫌だなあとくよくよ悩むのだ、きっと。

 

それに負けないように好きなことを……それこそ、こうして文を書くこと含めてやって、やり尽くして、楽しいことを面白いことを全部味わい尽くそうとしてると「楽しそうですね」って言われるんだけど、いやもう、それしか出来ないのだ。本気で、そうしてなんとかギリギリ叫び出したい気持ちを抑えてるのだ。
それこそ、星野源の言葉を借りれば「なんかその「嫌な場所だけど、なんか楽しんで生きていこうぜ」っていうよりかは、「もうこうするしかないんだよ。そうしないと、死んじゃうんだ!」っていう」やつである。

 

そうだよなあ、と深夜、ひとりで頷いた。圧倒的に一人のはずだし、そもそも、もう2年近く前のラジオ音源だけど、その時私は、一人じゃないような気がした。そうだよな、源さん、と頭の中で語りかけていた。

部屋の中、お喋りが響く。
よくもまあ毎日同じことを悩んでるなあと思うけど、その度にこうしてなんとか良い方向に歩き出そうとはしてるからセーフってことにしてほしい。
笑い声を聞いていたら、いつの間にか寝ていた。