えす、えぬ、てぃ

好きなものの話をしよう

香りを取り戻せ

料理が好きかと聞かれると全くそんなことはないが、苦手かと言われてもそこまででもない。なんとなく、でそこそこ美味しいものは作れるしレシピを読んだ時にある程度理解できたりするのは親のおかげだなあと思いつつ記憶頼りの創作料理を作ったりもする。仕事にはほぼ手作り弁当だ。
ただ、自立してから貧乏暮らしが長かったからか「食材を揃える」ことがハードルが高い。そもそも、平日は夜遅くに料理を始めることもザラだし、となると健康的にも体力的にもしっかりとした料理はハードルが高くお惣菜やらスープやらに頼るので、食材を使いこなす自信だってない。悪くするくらいなら買わない、となると……と料理からどんどん足が遠のいていた。

 

 

そんな私が避けていたはずのスパイスカレーの自作を始めた。カレーもスパイスも大好きだが、さすがに…と思っていたのに、とうとう手を出してしまった(一月から、と思っていたけど二月の間違いだった)
きっかけは実家に帰った時の一冊の本。母の趣味でともかく多種多様なレシピ本があり、その中の一冊にスパイスカレー本があった。
「ひとりぶんのスパイスカレー」というタイトルにそうか、一人分でもスパイスカレーって作れるんだ?と気付いた。作り方を見るとそんなに材料も必要じゃないらしい。
材料の数がそんなに多いことは材料を集めるのが得意じゃない自分にとってはかなり助かる。
じゃあまあ、気が向いたら作るか、なんて思っている話を友だちにしたら「じゃあこの後買いに行こう」となんの偶然かその時一緒にいた店の近くにスパイスを取り扱うお店があった。もうこれはご縁だ。見たらそんなに手が出ないような価格でもない。

 


次の週にはスパイス以外の材料も集めてレシピを確認しながら、作り出していた。
確認しながら、と言いつつ自分の記憶力をそこそこ過信しているので結構「こんな感じ」で作ったカレーは「まだまだ改良の余地がある」美味しいカレーだった。私はびっくりした。美味しいと改良の余地があるって、両立するんだ。
それは、なんだか嬉しい感覚だった。
料理を習慣として工夫しながらやってる人には当たり前なのかもしれない。だけど、惰性で料理をしがちな私にとっては「また作りたい」「次作るときはこうしてみたらどうか」が浮かぶことは本当に、本当に本当に嬉しかったのだ。

 


それからアレンジなんかもしつつ、スパイスカレーを生活に取り入れているある日。仕事終わりに「もうだめだ」の割合が大きくなった私は少し早めに職場を出て、スパイスを買った店に向かった…辛さが足りないから辛味のスパイスを買おう、あと香りももっと変化をつけたい。
そう考えているともうだめだは鳴りを潜めていく。店に着いて丁寧に効能が書かれたポップを読んでいる頃には気配もほぼなくなっていた。

 


楽しい。
誰かに食べさせるほどの完成度か、と言われるとそうでもない。凝ってる、と胸を張るには些細な創意工夫は、紛れもなくそれでも、私の毎日をわくわくさせている。

 


そうして今日。体力回復とメンテナンスデーと決めて潜り込んだ布団の中で、星野源さんのYELLOW MAGAZINE+を読む。ファンなのにデジタルコンテンツが苦手なために今更の加入になってしまったけど、おかげで横になりながらでも楽しめるコンテンツが沢山ある。
その中で、オールナイトニッポンの振り返りを読みながら2023年の放送を思い出した。

 

疲れていた源さんが「香り」を取り戻した話だ。

 

 

 

番組の中で「香りを忘れてるかも?という人からいたら真似してみて」と呼びかけてもらったことをコンテンツに触れながら思い出して「ああ」と思う。

 


そうか、私は香りを取り戻したかったのかもしれない。

 


スパイスカレーを作ってから数日、家に帰るたびに部屋に残ったスパイスの香りに癒される。帰ってきたなあとつい深呼吸をしたくなる。
なんなら、その香りが愛おしくて最近ではカレー以外の料理でもスパイスを使えないか試行錯誤し始めた。そうか、あれは、私は、香りを……生活を取り戻したかったのか。

 

 

そんなわけで、私は今日もこれからも、スパイスカレーを作るつもりだ。

 

 

スパイスカレーを作ろうと思わせてくれた方はこちらのサイトの方。スパイスは身近だ、と教えてくださって、ありがとうございます。