えす、えぬ、てぃ

好きなものの話をしよう

生命体

全ての楽器が今までの楽曲以上に跳ねて、歌って踊ってるように思えた。




今までも……特にここ最近の楽曲はどれもどんどん音が自由自在になっていって次々予想だにしない音やメロディがやってくるから楽しい、と思っていた。だけど、その中でも飛び抜けて、この「生命体」という楽曲はあちこちに跳ね回っている。まるで「俺の音を聴け!」と全部の音が主張しているみたいで、最初MVで見た時は頭の中でぱちぱちと音が弾けてびっくりした。


何より驚くのは、だというのに不思議と不快感がなくて不協和音でもなく、全部の音が「楽しくて気持ちいい」ことだった。全員主役なのに誰も誰かを押し退けていない。ただただ、自分の場所ででも「ここが世界の中心!」とでもいう勢いで音が跳ねる。





こんなのってあるんだ。
気が付けば、何度も聴いてしまうし聴いたのが夜中じゃなければ、走りに行きたい、と思ったかもしれない。心地よく心拍数が上がる。この生命体という楽曲の印象は、私にとってはそんな感じだった。
わくわくする、音が跳ねているのを聴いているうちに自分の内側まで明るい方に駆け出したいと思い出してしまう。




思わず、聴き終わった直後、感想を書こうとして、いやでも次の日のCDTVを観てからにしようと一旦なんとか無理やり眠ったのが昨日。そうして、さっきCDTVを観終わって、なんだかもう、結局胸がいっぱいになってしばらく布団の上で大の字になってしまった。





いやすげえ。もう本当に、なんだ、これ、すげえ。






私にとって星野源のパフォーマンスはいつだって、楽しい方に一歩進むためのそれなのだ、と思った。
なんだかひたすらに泣きながら、そんなことを思った。ギリギリの中で聴いていてもへらへらしていても、ぷしゅっと息を吐いて、それから大きく深呼吸する。そんな感覚をいつも覚える。







最近思う。命って不思議だ。いつか絶対に終わることが決まってるけどじゃあ「こうなったら幸せ」は決まっていない。なのに、なんでか比べたり誰かを傷付けたり自分を損ねたりしてしまう。
更に言えば、一生懸命やってると「でもこれなんの意味があるんだろうな」と過ぎることがある。だってどうせ、いつか死ぬのに。どころか、なんだかよく分からないものに巻き込まれて、奪われたり踏み躙られたりするかもしれないのに。





一生懸命やってるはずなのに、なんでかずっと苦しい。どこまでいっても足りないような気がする、これは一体なんなんだろう。




だけどきっと、この辛いや苦しいは誰かと比べてどうこうじゃなくて、自分が納得いくまで走り抜けないと手に入らない。そんな気がしている。
昔よりも劣等感だとかに苛まれなくなって、嘲笑されることも減って、なのになんでか埋まらないこれは、きっと自分自身が掘ったものに違いないし、それは誰かにどうこうされて埋まるものでもないのだ。ただただ、自分が納得するまでやり抜くしかない。
苦しいししんどい。だけど、そうじゃなくて。それだけじゃなくて。





ほんの少し前、ずっとそんなことを考えていて息苦しかったんだけど、生命体を聴いたらなんだか清々しく、改めてだよな!と思ってしまった。





それでも、なんでだか私たちは少しでも楽しいことがしたいし、明るいものが見たい。お腹が膨らまなくても、疲れるんだとしても楽しい方へと足を進ませたくなる時がある。






私たちは、生まれた瞬間に、勝ち負けだの優劣だのに巻き込まれる。生きているだけで、そこにいるだけで勝手な価値観にジャッジされる。
だけどそんなものに構ってる暇はない。
そうだそういえば、自分の人生は自分で生き方を決めていいんだった。そんなシンプルなことを思い出す。





「ここにいる」そう繰り返し歌われてふと『アイデア』を思い出した。


「あなたの胸から刻む鼓動は一つの歌だ」


そう歌う歌詞に、数年前驚いたあの感覚を思い出す。何かを成して、何かに勝って、秀でて、生み出して、歌われるんじゃない。ただそこで生きて生活をしているだけで、私たちは音楽を紡いでいる。その事実に、ある夏の日、私は救われたような気持ちになった。
その時のことを、思い出す。
生命体が、源さんが歌う。生きて、あなたはここにいる。
「ここ」は、自分で決めていいんだ。
自分でどう生きていくかは、私が決めるんだ。





どうにも塞ぎ込みたくなる。息苦しさに喘ぐしかできないような、そんな気がする。
だけどそんなん、ふざけんな、と思った。
ふざけんな、私の生き様は、そうだ、私が決めるんだった。そうして駆け抜けた先、研ぎ澄ませた先、それはきっととても明るい場所だ。
そう信じたくなる。
そう思うと明るく「ここが中心だ」と叫ぶような楽器の音たちは、そうして走り抜けた先で聴くファンファーレな気もする。
生きていく。
生きて、ここにいる限り、私たちの生活は続いていく。




ぱちぱちと輝く音が、確かに耳に届いているから、私はどこまでも走っていけるのだ。