えす、えぬ、てぃ

好きなものの話をしよう

#KZとコーラが3300km at NOON+CAFE

足早に会場に向かいながら、ライブの高揚感とはまた違った心臓の軋みを感じて、苦笑いした。何度も研修で通った、バカにされて笑われた会議で通った、逃げ出すように通った街だった。なんなら、会場のお店の看板を見て「明日から無職だからこういうお店にふらっと入ってコーヒーなんて無理やなあ」と思ったこともある。
ライブの感想の前に自分語りをしてしまってとてもアレだけど、梅田NOONのある中崎町は、私が昔仕事で何度か足を踏み入れた場所だった。だから、お店の場所を調べようとGoogle Mapに名前を入れて出てきた外観にも覚えがあった。何度もそれこそ、前を通った記憶があった。しかもそのどれもが、ほとんど、しんどい記憶と近いものだった。



なんでわざわざ、そんな話を書くかというと、自分にとって12月10日、あの場所で、あの町で、あの最高の景色と音楽で遊べたことが、とてもとても大きいからだ。音楽はきっといつだって最高で、だからきっと、あの場所じゃなくても感動したかもしれない、でも私はあそこで良かった、あそこが良かった。
生きて、記憶を変えていけることを含めてあの夜のことを文に変えて、残していきたい。



12月10日、梅田NOON。
KZさんとコーラさんの徒歩での日本縦断達成記念のライブはピースフルで音楽が最高で、とてつもなく美しい時間だった。






彼らの徒歩の旅を知ったのは、もう終盤の8月のライブでのこと。日本を歩いて…?とびっくりしながら、Twitterで時々様子を見るのを楽しみにしていた。
なんで歩くのか、で語られる彼らの言葉にもっと早く知って長く彼らの旅を見てみたかったな、とも思ったし、だからこそ今回、凱旋ライブに行きたいと思った。KBDさんもライブ中口にされていたけど、その旅を経たふたりだからこその空気感がきっとたくさんあるはずなのだ。




一発目のK-razyさん。こうしてHIPHOPのライブに行くようになって、いろんなラッパーの人に出会える度にわくわくする。そして初めて聴くのに曲としてその人の人となりや価値観、考えに触れられるこの音楽はすげえな、と毎度感動する。今回は、本当にK-razyさんが知れたの、最高にハッピーなことの一つだった。



初めて聴く曲たち。サブスクの時代に感謝するのは、やべえこのアーティスト!ってなった直後に曲をダウンロードできることだと思う(ところで、あの結婚の届け出されてからの日々の曲はなんていう名前でしょうか…本当にすげえ好きで、もう一回(いやもう一回と言わず何度も)聴きたい、噛み締めたい)
合間のMCで感じたKZさんコーラさんへのリスペクト、それから「元気が大事」という言葉。

この元気が大事、は今回のライブの全体に一本あった軸のような気もする。笑顔で楽しくて飛び跳ねてかっけーライブをぶちかましている彼らも、それにのって腕を上げてるフロアの私たちもそれぞれ元気でいた方が良くて、元気でいれることが何よりもすごくて、でもそうだけじゃいられないから、こんな夜が要る。



K-razyさんのまっすぐなラップを聴きながらそんなことを思った。またこの人のラップが聴きたいな。


そして更に元気のギアを入れにやってくるKBDさん。ソロで見るのは初めましてだったわけですがすげー。すげーパワーの塊。すげえ。

梅田サイファーをまだまだ聴き出したばかり&人の顔の判別が本当に苦手なのでこうして「この人!」と分かりながらライブが見れるのありがたい…。



KBDさんの「胃袋でパーティー」が好きすぎてやばい。本当にやばい。
残念ながら私はとんでもない胃弱で、しかし食べるのが好きだし大食いも(昔の仕事の都合で)わりと好きなんだけど、なんか、だからか分からないけどブッ刺さって泣きそうになってた。胃袋でパーティー…。
食事はガチ。まじでそう。
ファーストテイクとか見て感じていた素敵な人柄がそのままに伝わる最高なステージでした。最高。



そして梅田曲でスタートするKZさん、コーラさん。GAGAさん(でしたよね?!)KBDさんも交えながら、ライブをかましていく。

なんだろうな、あの多幸感。
梅田のライブでわけわかんなくなるくらい踊るのが好きだ。行く度に分かるバースが増えていくのが楽しくて面白くて好きだ。
そして人数が少ないからこそ、ひとりひとりのパフォーマンスを噛み締められるのも好きだ。
今回は、マスクをしての声出しはOKだから、初めてコーレスを好きな曲でできて、その高揚感もやばかった。



思えば「梅田サイファー、気になるぞ」と思ったきっかけはKZさんのライブでの姿を見たからだった。一人一人のこの人たちが知りたい、と思ったからで、そうしてやってきたこのライブでもやっぱり「この人たちのことが知りたい」と思った。このかっけー楽しいすげえラップをするこの人たちは他にどんなラップをするんだろう、どんなパフォーマンスを見せてくれるんだろう、どんな人なんだろう。


私にとってHIPHOP日本語ラップは一番楽しく「人に興味を持つ瞬間」なのかもしれない。普段なら聴けないような「俺の話」を聴ける。
それは、物珍しい体験談、ハスラー的な武勇伝ということではない。レアな身の上話ということでもない。その人が何を考えて何を感じて、どんなふうに生きてきたか。私はそれを聴くのが好きなんだと思う。
例えば、そこで語れるのがごくごく平凡だと言われるような生い立ちだとしても。



だってたぶん、それを「語りたい」と思った時点できっと、平凡なんて言葉で片付けられない。その語り手その人の、唯一の人生なんだから。




コーラさんのソロを初めて聴いたんだけど

その中で、何度も思った。優しくてでも結構芯があって、負けん気だってあって、譲ってくれそうな気配すらある穏やかさと絶対に譲らない足腰があるような、なんか、もっともっと聴きたかった。まじでワンマンに行きたい、もっとこの人の話を聴いてみたい。




100m走の話とマラソンの話を思い出す。マラソンでいい、と言った穏やかな声を思い出す。私はずっと、100m走じゃなきゃダメだと思ってた、どころか、だというのに遅い自分にダメだとずっと思ってた。
だけどそんなことはなかった全然なかった。
ラソンでいい、着実に歩いて走って、歩き切った方がいいと言う、日本を縦断しきったふたりの言葉は何よりも説得力があった。




肯定してくれるから優しいから好きなのか、って一瞬自問自答した。
コーラさんにしろ、KZさんにしろ、他のゲストにしろ、すげー優しいし、なんというか、その人たちのパフォーマンスを見てるとガリガリ日常で削れたほつれが治る。日常だったら笑われる「ダメなところ」を悪くないんじゃないかって思う。
だから、好きなんだろうか。


願望含みだけど、そうじゃないと思う。




何かの表現をすることを、誰かに何かを伝えようとすることをスカされたり笑われたりジャッジされたりすること、
いやそんなことまでいかなかったとしても尽くした言葉をなかったことにされること、伝わらないことに何回も傷付いてきたし、ならもう無意味だとも思ってきた。


だけどそうじゃなくて、コミュニケーションをとり続けようとしてくれる人たちがここにいるんだと私はそのステージ上で知った。
「俺の話」をして、一対一で、話をする。
実際には喋っていないのに、どうして私は「話した」と「受け取った」と「伝わった」と思ったんだろう。




彼らの旅を追うようになって、音楽を聴くようになって何度か、彼らの旅の話を友人にした。なんで歩くんだろう、どんなものを見るんだろうと、私は友達と話した。話して、その中でKZさんやコーラさんが発信している言葉を「って言っててね」と話す、その度、友達とああよかった、とか、ああそっか、と頷いた。
歩いて歩いて、この世界は生きる価値があると綴る姿を見た時、ああよかった、と思った。



そこそこ、元気でいるのが難しい毎日だけど、でも、元気でいたいと思う。元気でいて、そうして迎えた夜が、12月10日、あんな素敵な形をしているなら、私はそれを信じられると思う。信じたい。





音楽の、音の空気の振動にお金を払うこと。KZさんのMCを、繰り返し思い出してる。
ふたりが最後にかました新曲を思い出してる。

夏にKZさんのライブを見て、その時作りながら迷っていた「自分の表現」をクサすのはやめようと決めた。自分がやりたいと思うこと、面白いと思うことを信じ抜こうと決めた。その後も散々迷ったけど、迷うたびにアルバムを聴いた。



音楽を聴いてる間は、まだやれると思ったしそこでエネルギーを積み込んで、実際、やれた。



自分の人生は自分が主人公なんだっていうシンプルででも大切なことを思い出させてくれたふたりは、誰よりも、自分の人生を生きていた。





そんな人たちの音楽をもう自分の人生から降りようかと本気で考えながら歩いたことがある街で、聴けてよかった。明るくて楽しくて、「ああこんな夜があってよかった」と思える、そんな夜になってよかった。
また、彼らは旅に出るんだろうか。出ても出なくても、ずっと彼らは彼らの人生を生きて、言葉にして音楽に変えていくんだろうな。


それを聴くことを糧にして、私も自分の人生を歩く。不可能から可能がそう遠くないとまた教えてもらって、確認したから、たぶん、どれだけでも歩けるはずなんだ。



忘れないための大事な宝物がまた増えました、ありがとうございます