えす、えぬ、てぃ

好きなものの話をしよう

【サンプルあり】『グレースケール』について

【サンプル】オープニング、あるいはボクはここで待つ【サンプル】




ボクは、ぼんやりと時を過ごしている。
見えるのは砂とその奥の街の残骸。もしかしたらその街の名残は蜃気楼かもしれないけれど、ボクに確かめる術はない。


人間は、人間であることをやめたんだと思う。


そんなこともボクが「そう思う」だけで根拠はない。ボク自身も「人がひとだった」と感じる時代を生きたことはないんだから、分かりようがないのだ。
人が文明を手放してからどれくらい経つだろう。
もしかしたら、ボクが知らないだけで文明が残るエリアもあるのかもしれない。それも、ボクも知ることはない。知ることがない以上、存在しないのと一緒だ。
人が人と一緒にいることをやめた。繰り返された戦争でそもそも人口が減り続けた世界はある一つの結論を出した。人は、人と生きるからいけないのだ。
もちろん、人がたった一人で生きていくのは難しい。だけど、極力、人と関わらないように。最小限の小さなコミュニティで生きていくことを選んだ。奪い合ったり傷つけあったりしないように。それぞれが小さなコミュニティに分かれて、生活するようになった。



砂だけがずっとあるもので、そこで遠く太陽がのぼり月とかわりばんこで光を降り注ぐのをただ、見ている。
ボクはそこで、ぼんやりとした時間の中で過ごしてる。時々やってくる誰かが、その中で起こる「ちがうこと」だ。その誰か、もいつくるかはボクにはわかるはずもないんだけど。
ただ、何故かボクのもとにはお喋りな誰かが来ることが多い。それはたまたまそういうひとばかりが来るのか。それとも、ここに来るとみんなお喋りになってしまうのか。どちらかは分からないけれど、ボクはその話を聴くのが楽しみなんだ。



…next track

ここから先は宣伝だよ〜!


さて、宣言したから、心置きなく宣伝したい思う。CDが出ます。といっても、私は音楽に関して楽器もできないし歌も歌えないし作曲もリミックスもできない。
だというのに、何故CDが出ると宣伝してるかというと、そのCDにつく小さな冊子に物語を書いたからだ。



イメージアルバムというジャンルで伝えると分かりやすいだろうか。
歌のないピアノをメインとしたインストゥルメンタルのアルバムに短いお話を書いた。
2000字弱のお話が8つ、9曲の曲が収録されたアルバムのと一緒に収録されている。その8つのお話の執筆を今回、担当した。お話としては同じ語り部が主に話を進める連作の物語になっている。


音系・メディアミックス同人即売会「M3」にて発売予定だ。

第一展示会場【N-20】にて『グレースケール』というアルバムが頒布される。
※後日、通販も予定されています。



音系の同人即売会という存在を知って、面白いなーと感動した。私は、同人文化っていうのがそれはもう大好きなんだけど、その音楽のジャンルに関わることができて、すごく、嬉しい。


今回のピアノインストアルバムは、癒しの、とかヒーリング効果、睡眠導入に最適、とか、そういうのではない。
でも、想像して向き合う時間を作る音楽って楽しくないだろうか?楽しいといいな、と思う。そしてお話を抜きにして、音楽だけ聴いてくれてもきっと、想像したくなるような音がそこには広がってると思う。
元々、どんなアルバムを作ろうかと相談していた時、夏休みの終わりの寂しさや久しぶりに会った親の背中が小さくなったのに気付いた時のような、という話になった。
そこから、どんな話を書きたいだろうかと考えながら、曲が上がってくるたびにわくわくした。


私が書いたお話は、この一年半、ずっと考えていたことや好きだったもの、なんでだろうと思ったものが詰まった形になった。
覚えのある寂しさのことを考えながら、今書きたい話はなんだろう、と考えたせいからだ。
明るい話なのか、暗い話なのかは分からない。私は明るい話書けたなー!と思ったら暗いな?!とリアクションが返ってきたりその逆があったり、なんだかそういうのも誰かと作るからこそで、そして、手に取った人の数だけリアクションが生まれるかもしれないことにすごく、どきどきしている。
そんな気持ちも込めて、今回『グレー・スケール』という名前をつけた。




museoという友人がいる。この友人が、今回、私を誘ってくれた。
高校時代からの付き合いで、学生時代は延々と公園で門限ギリギリまで、いや、なんなら門限を越えて怒られながら喋ってきた友人である。
読んだ本、観た芝居、部活の愚痴、気になってるニコニコ動画の動画、そして音楽の話。
ともかくいくら話しても話し足りなくて何度かやったお泊まり会ではうつらうつらしながらお菓子を片手に夜通し喋っていた。
私の好きな音楽の基盤を作った一人は間違いなく、むせおだと思う。
ブルハにピロウズ、ヨエコにミッシェルとともかく色んな音楽を聴かせてもらい、そのたびに私の世界の楽しいは増えた。
そして、そんなむせおの作る音楽が私は高校時代から大好きなのである。



高校時代、私が描いた話の音楽を音楽室で作ってもらった時のことを私はずっと覚えてる。
音楽への憧れのせいかもしれないけど、そこにないものが形を持って生まれる、広がるそんな感覚がむせおの曲にはある。



もし一緒に作ってて友達やめたくなるくらいなら作るのをやめようね、と高校時代ならきっと頷けなかったことを言われながら一緒に作るのが本当に楽しかった。


楽しいのに、作りたいものを作れたという実感もある。それは、結構、奇跡的だと思う。
そして願わくば、そんな奇跡の連続で、手に取ったあなたの心が動くような奇跡も一緒に起こりやしないかと、妄想している。



どんな時に聴くのが合うのか、どんな気持ちになるのか。それはもう、聴いてくれるあなたにお任せしたい。どうか、楽しんでもらえますように。