えす、えぬ、てぃ

好きなものの話をしよう

僕と幽霊が家族になった件

観終わった後「頼むこれ、みんな観てくれ」と思ったのは久しぶりだった気がする。
なんでだろう、とずっと考えてる。なんでか、私はこの映画を観て、色んな人に見て欲しいと思ったしその時、感想を聴いてみたいと思った。わりと私にしては珍しい感情である。





僕と幽霊が家族になった件、は台湾で今年、かなり話題になった映画らしい。Netflixでは既に8月から公開されており、私もその流れで知った。面白そう、とともにアクションが結構派手なことからどうせなら映画館で観たいな、と思っていた頃、塚口サンサン劇場での公開を知る(塚口サンサン劇場を愛しているのはこういうところだ。後から知った「良いな」と映画館で出会うきっかけをくれる)





ノンケのゲイ嫌いの警察官がゲイの青年と冥婚する。冥婚とは生者と死者の結婚であり、通常は供養のために行われる儀式で、そうすることで運気があがり、逆に拒絶するとバチが当たるという。
この映画ではそうして渋々冥婚することになった警官・ウー・ミンハンのもとに冥婚相手・マオ・バンユーが化けて出ることで物語が進んでいく。





当然ながらそんな設定なのでふたりは当初、お互いを毛嫌いしているし、悪態をつきあったりする。
それでもだんだんと関係性が深まっていく姿は愛おしいし、なんなら喧嘩の間もテンポのいい会話に(実際話されてる言葉はわからずとも)楽しくなる。
またふたりのほか、ウー・ミンハンの同僚やマオ・バンユーの家族など、出てくるキャラクターひとりひとりが色濃くてずっと画面に飽きないのも強い。
ウー・ミンハンの同僚であり警官上でのバディである女性警官・リン・ツーチンなんて、まじで可愛くてパワフルで最高である。





台湾では、既に同性婚が認められている(すごいなあ)
だから、ウー・ミンハンのように同性愛を毛嫌いするひとは「今時?」と眉を顰められ、実際仕事上では差別的だとして叱責を受けたり罰を受けたりする。その描写にもすごいな…とカルチャーショックを受けるし、それでも根強くある差別や、結婚を認められたからこその悩みなどにもなるほど、と思う。いずれも、いまだに「同性婚がありかなしか」なんてところで話をしている日本では作り得ない物語だった。




私がその中でも印象的だったのは「マオ・バンユー」が自分が愛している人と結婚できること、が「自分にとって」どういう意味だったのか、なんでそうしたかったかに気付く場面である。
というか、このマオ・バンユーの役者さん、リン・ボーホンさんは、ともかく表情が豊か。子憎たらしい表情まで可愛く見えるところも魅力的でどんどん私たちも彼を好きになっていく。





愛する人と過ごすということ、人生の中でそんな人に出会い、心を通わせること。
その意味や鮮やかさを自然な形で描き切ったこの映画は本当にすごい。
また全体的にはあくまでアクションコメディであり、わりと常にアクションにワクワクしたり、喧嘩する彼らの会話に笑ったりしていたのも最高だった。そうしているうちに彼らを大好きになったからこそ、たぶん、私はあのメッセージにグッときたのだ。



自分の思うような人生じゃなかった時、ひとがどうするのか。もっと言えば、「思うような人生」に進もうとするためにもがくひとがどれくらい愛おしく、素敵なのか。
なんだかあの作中出会った彼らがあまりにも好きで、そのことをずっと考えていたいのかもしれない。だから私は誰かに、この映画を観て欲しいんだな。誰かと話すことで、その存在はよりくっきりと私の中に残るはずだから。




https://www.netflix.com/title/81689962?s=i&trkid=255824129