えす、えぬ、てぃ

好きなものの話をしよう

MELT

USUさんのアルバムを出すという知らせが嬉しかった。
その理由は2つあって、1つ目はこのアルバムの終わりを担う「GHOST」だ。
Creepy Nutsオールナイトニッポンの0時代からのリスナーにとってはこの曲をきっかけにUSUさんを知った人も多いかもしれない。
私も漏れなくそうだけど、聴き込み出したのは今年の1月の終わりからだった。
年末年始からぐちゃぐちゃで「前厄すげえー」と笑いたいような同僚たちから「バッド抜けるのが先かつくさんが死ぬのが先か」なんて笑えない冗談を飛ばされていたあの頃。ラジオの終わりが発表されたタイミングで改めてUSUさんがこの曲のこと、そしてあのラジオのことを呟いていた。なんでかそのツイートが気になって、ダウンロードするだけして聴き込んでいなかった「GHOST」を再生した。


一度「辞める」と決めたUSUさんが、もう一度曲作りをすることにした一発目。その一発目に相応しい…いや、なんだかそんな言葉すら浮いてしまうようなこの曲がその時の私にはドンピシャにぶっ刺さった。


諦めと、でも自分の今までに今に誇りを持っていることも。
悲しさや苦しさが滲むのにそれ以上に勇気付けられるような気が勝手にしていた。歩くのがしんどく、足取りが重い。そう思ってるはずなのに流れてくる言葉に「そうだよな」と頷きながらまだ歩けるような気がする。


俺が生きたかったから生きるだけ


その一言を何回あの頃、繰り返しただろう。


そして、もう一つ。日本語ラップを聴くようになってアルバム一枚を通して描くストーリーに何度も魅了されてきた。起承転結があって、そこにある思い、一曲一曲に詰まっていること。それを、このGHOSTを作ったひとが編むことが楽しみで仕方なかった。
そんなわけで、ちょうど職場の飲み会と被ったリリース配信日。帰り道の楽しみに、とダウンロードして飲み会帰り、ぐるぐると思い悩みがちな頭を素敵なものでいっぱいにするために再生ボタンを押した。




十八曲というボリューミーなアルバムは、想像通り豊かで、想像以上に好きになる曲が満載だった。




日本語ラップを聴くたびに思う。聴いてる間のこの居心地の良さはなんだろう。
音楽なら伝わる気がすること。
歌われるのはむしろ、知らないことばかりだ。
USUさんのこと、新潟のシーン、それどころか日本語ラップすら偏った聞き方をしているし、そもそも自分と違う境遇、状況のひとの「俺の話」のはずなのである。


だけど何故か、聴いてる間、伝わる、と思う。



あれは一体なんだろう。
更に言えば「この人の言ってることが理解る!」というよりも(もちろん、それだってあるんだけど)「理解ってもらえる」ような錯覚を覚える。そんなはずないのに。
勝手に重ねている人間の身勝手な思い込みなのかもしれないけど知っている話の「受け取りやすい」ではないからこそ、良いのかもしれない。それからビートや歌声、そういう「受け取りやすい工夫」がそっと連れていってくれるからかもしれない。




日本語ラップを聴き出すようになってクラブに足を運ぶことが増えた。パフォーマンスを聴いてる間は居心地が良くてここだ!と思うのにバーカンタイムになるとああそうだ、違う人だったとびっくりする。勝手に重ねていたラッパーが当たり前に自分とは違う人で、理解る、なんてちょっと違うよなと反省だってする。でも、音源を聴くたびに思う。





「Over」を聴きながら、きっとこれから何度もこの曲を聴くんだろうなと思う。
USUさん自身の「自分の話」に自分を重ねる。この曲を聴いている間は聴いたあとは、きっと大丈夫。そんなことを思う。
そうだよ、インスタのストーリーじゃ、Twitterの140字じゃ物足りない。そんなんじゃない、バズなんか関係なくてひりひりと焦がれるような誰かの言葉が聴きたかった。
それは自分の中の言葉を腐らせたくない、そんなことを思ってるからかもしれない。





本当に、身勝手な話だ。
怖いことだな、とも思う。日本語ラップで「俺の話」を聴くたび、もっと聴きたいと思う。思ってしまう。
結果、誰かの苦しさやしんどさをコンテンツとして消費してなかったか。吐くように綴られた言葉を軽くしてしまってはなかったか。
そんなことを思いながらも、再生するのをやめられないし、自分を勝手に重ねたりもするんだけど。



そんなことをこの「MELT」を聴くたびに思う。
そこにある悲しみ、苦しさ、もがき。劣等感とそれでもまだ、と思うこと。自分のやってきたことを信じること。そんなとんでもない思いを、自分じゃ想像つかないような激情をこうして聴かせてもらえる、それはなんてことだろう。



全然違う人生を歩んできた人の俺の話が、自分の中で大切な音楽になる。
「Focus on me」は聴くたびに泣きそうになる。身に覚えがありすぎる。
言葉も歌声もあまりにも心地よくて、なんだかフィットしてしまって、そうだよな、とうなずく。

ただ2人とやりたいから誘っただけ

俺は俺の看板背負って
くたばらずに歩くよ



知らない誰かだったひとの曲に言葉に人生に、歩くための力をもらえるのが日本語ラップのすごいところなのかもしれない。
こんなに曝け出してしんどくないだろうか、と思うところもある。でもきっと誰よりも自分のために綴られた言葉たちが嬉しい。それに勝手に自分を重ねる行儀の悪さを心の中で詫びながら、私は再生ボタンを押す。



今のHIPHOPシーンを歌いつつ「分かってるもっとカマさないとな」と歌ってくれる「Here」も本当に好きで。
すごいな。
だって、たぶん、これってすげえ怖いことを歌ってる。自分への(それは自身と周りの人から)失望を劣等感を言葉にすること。
しかもその中で後輩の名前も入れて歌うことが、本当に、なんか、すげえなあ、と思うのだ(本当に言葉足らずで悔しいけど)





「MELT」は前半、戻ってきたUSUさんの迷いやまだまだ、という名乗りを思わせる曲が続き、それから家族の歌、そうしてあのGHOSTへと続く。



十八曲というとんでもないボリューム。そして何よりその一曲一曲の分厚さを何度も何度も聴き返すたびに思う。どの曲も、本当に熱量が凄くて、それはきっとUSUさんじゃないと生み出せない曲なんだ。そして、私はそんな曲たちがあるから、このアルバムが好きなのだ。
限りなく個人的な話も織り込みながら、言葉にすることを避けてしまいそうな恐怖心もそのままに、それでも、と歌ってくれることが、私は嬉しい。
勝手に自分を重ねる。
それでも、と私も自分に思っていたいからきっとこれからもこのアルバムを聴くんだろう。




これ、結構難しいのだ。
なんで感想を書いているんだろうと時々思う。伝わって欲しいからか、広めたいからか。あるいは、作り手に感謝されたいからか。
どれもそうな気がするし、でも、決定的に違うようにも思う。


ただ私は。
広い広い世界で、この作品に出会えて嬉しいと思う。歩く時の道標なんてなく、こう生きたら正解なんてものもないはずなのになんでか自分の歩みを否定してしまいそうになる、迷子になりそうになる毎日の中でこの作品に出会えたことが心強い。
ただ、それを形にしておきたいだけなのだ。
瓶に手紙を詰めて海に流すようなものだ、と創作について昔誰かが語っていた。だとしたら瓶はここにも届いているとそっと私も手紙に書いて海に流したい。
それは届くかどうか、届いた時にいいことかどうかはわからない。ただ、在ったことにはしたいのだ。




※ブログ内に書いた曲のリンクを貼るけど、良ければアルバムを通して聴いてみて欲しい





Over

Over

  • USU & DJ TAGA
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥255




Focus on me (feat. sagwon & fuzzy)

Focus on me (feat. sagwon & fuzzy)

  • USU
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥255




Here (remake ver.)

Here (remake ver.)

  • USU & DJ TAGA
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥255