えす、えぬ、てぃ

好きなものの話をしよう

エス・オー・エス

ENGさんの作品を何作か観てきたけれど、ドンピシャ一位で大好きな作品と出会った。
それが、今回はもう無理かもしれないと思いつつ、でもどうしても好きな役者さんが揃ってるところは観たいと配信期限ぎりぎりに購入したお芝居だったことに、結構私はいま、嬉しい!と思ってる。
本当に本当に面白かった。出会えてよかったな、と思う。
それから、S.O.Sというタイトルを噛み締める。
本当に、なんて良いタイトルだろう。



物語は、観光客船が遭難し、無人島に着くところから始まる。
ENGさんはいつも丁寧にキャスト紹介を上演前してくれるわけですが、
今回、それを観ながら「ファンタジー寄りのお話なのかなあ」と思っていた。
剣や魔法は出てこなくても、「現実ではあり得ない」というリアルラインで展開する物語。
そういうお芝居は、結構ENGさんであるし(逆に剣や魔法が出てくる系のお芝居もあるけど)なるほど、今回はこんな感じか!と思いながら観ていた。



自分自身がそんなにファンタジーの解像度が高くないところもあり、それもあって今回どんなテンションで観るんだろうなーと自分自身に思っていたところは正直あった。





そして実際、配信を見出して、あーでも楽しいな!と嬉しくなった。わくわくした。
画面に溢れる個性豊かな人々。いい意味でデフォルメ化された人たちはそれはそれで見ていて楽しくて「現実」を忘れさせてくれる。かつ、ENGさんのお芝居を見るときの心持ちはわりとそこなのだ。そういうところを居心地が良いと思ってる。ENGさんの「現実を忘れる時間でわくわくしてほしい」というスタンスが、私は結構、好きなのだ。それはストーリー傾向がドンピシャ好みとはちょっとズレるけど、それでもここのお芝居は好きだし、この人たちがお芝居をしていると嬉しくなる理由の根っこにあるのかもしれない。




ともあれ。
そんな現実にいそうでいない"濃いひとたち"が自由に舞台上、「無人島に遭難」という設定の中で駆け回る。
ところで、それはいつもすげえな、と思うし今回より濃く感じたんだけど、芸達者な座組み、という言葉に思わず深く頷きたくなるほど、彼らが演じていると"あり得ない設定"があり得てしまうからすごい。
生きてる。いないだろこんな人!と言う前に「居る」確実にそこに「生きてる」。
いやもう、本当に、そんな彼らが私はすごく好きだ。





そしてそんな濃い人たちも、抱えているのはどこか知っているような痛みだ。人数も多いから全てを事細かに掘り下げられるわけじゃない。
だけど、それぞれが抱えている悲しさや寂しさ、劣等感、なんとなくの居心地の悪さ。
それが、笑いの合間に顔を覗かせる。そんな距離感がまた私は居心地が良かった。非日常だからこそ、彼らが口にした「日常の中の閉塞感」に自分をほんの少し重ねて、でも笑えたりわくわくしたり、なんだかもう、それがすごく、見ていて楽しかった。


「なんとかなると思ってるうちは、なんとかなる」

冒頭語られた台詞をそうやって楽しみながら、そうだなあと頷いていた。
今回、ずっとこの「小劇場」と呼ばれる界隈に出会った頃から大好きな役者さんたちが出てて、その人たちが揃ってるお芝居を(共演シーンはほぼなかったけど)久しぶりに見て、すごくすごく幸せだった。
心を大きく揺さぶられる、とかではないんだけど、それこそ「このお芝居がある間はなんとかなる」と思えるような居心地の良さがあって、なんかそれは、言語化できる類のものではない気がするんだけど。
そうだなあ、と思いながら観ていた。
楽しいこと、笑えること。現実的かどうかとかリアルかとかはどうでも良くて、なんかそういう時間がすごく大事だったりするのだ。







とか、思っていたら。思っていたらですよ。物語が大きく核心に迫って心持ちをぐいっと引っ張られた気がする。
「あり得ない」設定はそりゃそうだったのだ。
全て、松木わかはさん演じる主人公が書いた脚本上でのお話なんだから。


なんかもう、そっから、びっくりするくらい気持ちがぐらぐらしてしまった。
し、なんというか、荒唐無稽だろうがなんだろうが、面白いものを描こうとする、生きようとする彼ら、そしてそれを描く姿にどうしようもなく食らってしまった。

松木わかはさんを何度も舞台の上で拝見したことがあるし、ツイートもそれこそ拝見することがあるけど。ああぴったりな役だな、と感じた。
もうなんか、いっぱいいっぱい愛してくれる人だな、と今までの作品で思ってきたし「これが好きなんだ!!!!」というエネルギーに満ち溢れた役者さんだと思うわけですが、その魅力が大爆発していた。
そしてそうして愛されて生み出された登場人物たちをこれまた私の好きな役者さんたち含め、魅力的な役者さんが「これが好きなんだ!!!!!!!」の気持ちで生き抜いてくれる。



もうなんか、こんな嬉しいことってないよ。




どれだけ幸せな物語を見てもどれだけ笑ってもどん詰まりの現実や日常は変わらないかもしれない。だけど、荒唐無稽だと笑われようが「これが好きだ!」と思った「面白い!」と思った、そうして生み出された物語を旅した時間は、絶対に忘れられないものになるから。


そういう時間は、確かに「Save Our Souls」になるのだ。