えす、えぬ、てぃ

好きなものの話をしよう

ピーズラボ 9月20日公演 異界の魚、闇を操る糸

ピーズラボが物凄かった。本当に物凄かった。
楽しみにしていたなかで、もちろん「楽しむ」つもりでいたんだけど、正直、こんなに楽しいという気持ちになれるとは、と驚きすらしている。
結果、もうなんかいてもたってもいられなくなり、こうして書き殴るようにブログを書いている次第だ。


ピーズラボ、とは「プロデューサーの実験室」という意味で、
ポップンマッシュルームチキン野郎さんやX-QUESTさんなど様々な劇団、企画をプロデュースしてきた登紀子さんの企画配信公演である。


私はそもそも、登紀子さんの関わる公演が大好きだ。それこそ、しんどくて全部うんざりしていた2015年。アイビスプラネットの上映会として、惑星ピスタチオさんやポップンマッシュルームチキン野郎さんのお芝居を大阪に連れてきてくれたこともいまだに克明に覚えてるし、
劇場に足を運ぶたび「ここに来たら大丈夫だ」と安心するような優しさと楽しみをくれるプロデューサーさんである。
その人が作る「実験室」しかもそこに大好きな高田淳さんと野口オリジナルさんが出演されるとなれば、観ない手はない。もうそんなの、私にとっての超パワースポット状態である。

そんなわけで、告知画像の隅まで張り巡らされた気遣いと優しさに涙ぐみつつ、ワクワクしながら私は9月20日公演を予約、夏は色んなことがあったからえーい自分へのご褒美だ!と生まれて初めておふたりのチェキもポチり、私は今か今かと万全にその公演が観れる日を楽しみにしていた。



この今回のピーズラボという実験室はインプロと事前収録された短編公演の2部構成である。
インプロバトルとは視聴者からのお題をもとにわずかな打ち合わせのみで役者たちが即興でお芝居を作る企画だ。コメント欄で役柄、シチュエーションなどを投げ、それをくじでひき、演じる。

なかなかひりひりする企画なわけだけど、見た回は毎回面白い。
即興でこんなお芝居ができるのか、と思うし、即興だからこそ普段見れないジャンルが見れたり、逆にその役者さんの十八番を堪能できたりと"ファン"としては堪らない企画だ。
あと役者さんがきゃっきゃしていて楽しい。楽しそうなのを観ているのは本当にそれだけでエネルギーだな、と思う(上演当日、仕事でしおしおだったので映像に集中できずにいたんだけど、その中でぼんやり音声を聴いてるだけでなんだかまあいいか、なんとかなるか、と思えたから不思議だ)


そして、そしてですよ、短編公演なんです。
インプロももちろん面白かったんだけど、今回、私は初めて短編公演と同時、という配信を購入して、それが本当に凄まじかったんだ。

私が観た回は西田シャトナーさん作の「異界の魚」を野口オリジナルさんが演じて、
望月清一郎さん作の「闇を操る糸」を高田淳さんが演じた。


ところで本当にこれは贅沢だなと思うんだけど一人芝居、一人芝居なんです。
大好きな役者さんの一人芝居なんです。
もちろん私は会話劇が好きなので、一人芝居にめちゃくちゃ固執してるわけではないんだけど、
でも、やっぱり、だって、ねえ!嬉しい!



まだ配信期間もあるため、あくまでネタバレに注意しながら書く。


異界の魚は、ある稽古場の男の独白で物語は進んでいく。
演劇に並々ならない執念を燃やし、素晴らしい演技をすると稽古場に現れるという「異界の魚煮」を観たいと願う男。
芝居を繰り返し、今度こそはと思いながらもなかなか現れない魚に焦がれながら、彼はお芝居を続ける。
その独白がもう愛となんなら少しの痛みすら伴っていて、私はもう、ちょっと観た直後から頭がバーストし続けている。こまった。
何があれば「素晴らしいお芝居」なのか、何をできる人を素晴らしい役者というのか。そもそも、何を演劇というのか。
苦しくなるほど、見入ってしまう。
そんで、野口オリジナルさんの熱量が凄いんですよ。凄いんですけど、暑苦しくないんです。
暑苦しくないってのも語弊があるな。
なんというか、誰かを排除する熱量は一切そこにはない。むしろ、ただただ、自分に向かってるとのな気がした。でも、もちろん、だからといって観ているこちら側を置いてきぼりにしないのだ。
男はひたすら、お芝居を続ける。祈るように叫ぶように続ける。それは劇中の男の言葉でもあるし、野口オリジナルという役者その人の言葉でもあるし、この本を書いた西田シャトナーの言葉であるように思えた。
そして、それは、たぶん、この演劇という目の前で人が虚構を演じるという、しかもそれが残らず消えてしまうものだという不思議なものに焦がれる全ての人への、優しい答えのような気もする。


闇を操る糸は、昔話を題材にした物語である。ある小屋で孫とともに暮らす老婆が、訪れた修験者に聞かれた物語を語って聞かせる。
淳さんはスラリとした身長のそれはもう格好いい方なんだけど、メイクなどはあるとはいえ、もう完全に佇まいが年老いた老婆で引き込まれる。話される物語は、東北の悲しく恐ろしい物語なんだけど、見入ってしまう。
(話はズレるが、私は淳さんの指先のお芝居が大好きで、それがインプロバトルでも物凄く堪能できて私はすごくすごく嬉しかった。はー、大好きだ!)
語りの凄さもあるんだけど、その目が、それはもうきらきらぎらぎら光るのだ。すごい。本当に。
「浴びる」という表現が似合うようなお芝居に魅入っていると引き返せないところまで、連れて行かれてしまう。
恐ろしい話なんだけど、その目の奥底、語られる声に滲むどうしようもない情が、愛おしく思えて、今も鳩尾あたりでぐるぐるしている。
どうしようもない。
そう表現するのは逃げかもしれないが、哀れだと他人事にするには愛おしく、自分ごととして抱え続けるにはあまりにも苦しい。
ただ、あの物語を演じている姿を見れたことは間違いなく幸運で、私はやっぱり、言葉の追いつかないような気持ちの中にしんしんと沈んでいる。




ピーズラボは、配信公演である。
配信公演、というものがすっかりお馴染みのものになりつつある今日この頃、そこにあるハードルや大変さ、便利さ、そんなものも、なんとなくぼんやりとではあるが、理解できているように思う。
同時に、どれだけ発達しようが、劇場のお芝居こそ本当、なのだという言葉も何度も目にした。
しかし、最近、私は何故か生のエンタメに触れるのを怖がっていた。
どうしようもなく、喉から手が出るほど欲しいと思いながらでも同じくらい強く「観たくない」、いや正確には「観たいと思えない」と思っていた。その件で、いろんな友人に話を聞いてもらったり心配してもらったりして、私もなんだこれ、とずっと、考えていた。
配信は寂しいと、配信の演劇は結局代用品でしかないのだと言われるたびに、私は寂しく思っていた。私だって、そう思わないわけではない。劇場で同じ空気を吸い、空気が揺れ、その瞬間しか生まれないものがある。
だけど、それでも。
私はこの一年半、何本も配信公演を見、配信ライブを見てきた。その度に心を揺らしてきた。
愛おしくて、大好きで大切な公演がたくさんある。その記憶で、送れた毎日がある。
私はきっと、生のエンタメを観ることで、これまで観てきた配信を代用品だ、と思うことが怖かったのだ。
全くもって、相変わらず、0-100な思考回路で頭を抱えてしまう。別に、生のエンタメを観ても、それは変わらないのに。


今回、ピーズラボを観て、インプロバトルを観て笑い、異界の魚と闇を操る糸で心を震わせて思う。
この公演は、私の大好きな演劇である。
どんな困難も、想像力とスタッフの方の創意工夫と役者の方の肉体をもって、飛び越えていろんな世界を作り上げる、そんな私の大好きな演劇である。
それがわかったから、私はもう、大丈夫な気がする。
幸せなお芝居を見せてくれた上に、そう気付かせてくれたピーズラボとそれに関わった全ての人へ感謝と愛をもって、この勢いだけの文を締めたいと思う。

本当に、ありがとうございました。



この奇跡のような9月20日の公演は、10月4日までアーカイブが観れる。やったー!

https://twitcasting.tv/aptokiko/shop