えす、えぬ、てぃ

好きなものの話をしよう

2022.8.29 押忍フェスの夜

夏がそこそこに地獄だった。
熱中症で倒れたり壁に向かって恨み言を言ったりとてもじゃないがここでは書けないような物思いに耽ってはそれをまた朝には丁寧に押し入れの奥底に仕舞い込んだせいでいつまで経っても毒素が抜けず、抜けないままにここまで走り抜けてしまった。



いきなり、ライブに行くことにした。
計画性がないと言われることは多いけど、予定の前に心構えがいるタイプなので楽しい予定であっても事前に知りたい。その上、行ったことないハコに行くのは方向音痴的にハードルが高い&フェスへの経験値の低さ的に迷いに迷って、それでもどうしても梅田サイファーが観たくて、仕事を半ば無理やり終わらせて電車に飛び乗った。



ライブってすげえよな。許せないような心地とか、どうしようもない閉塞感とか、怒りとかそういうの全部、どうでも良くなってしまった。



8月29日に開催された押忍フェスは、ボーイズユニット・HIPHOP・レゲエと主催の方が好きなものを詰めまくったフェスだったらしい。
仕事で途中から入ったのが悔しいくらい、音楽が楽しくて楽しくて、まだ目の前がきらきらしてる。
本命の梅田サイファーはもちろん、ほかのアーティストのライブも、最高だった。何より、私は、それを幸せそうに味わうひとを観るのが大好きなんだ。
ロック、HIPHOP、Jポップ、レゲエ。音楽のジャンルに詳しくないからかもしれないけど、本当にそのジャンルに垣根なんてないんじゃないの、なんて思った。だってそれぞれ全部最高で楽しい。どのジャンルがイケてるとか偉いとか、全然ないんだな。




時期柄、ある程度ゆとりのある空間だったから身体が軋むくらい踊った。踊るのが苦手だとずっと生まれてこの方思ってきたけど、踊るのは楽しかった。音楽を聴いてたら勝手に身体が揺れた。知ってるとか知らないとか関係なく飛び跳ねる、拳を挙げる、楽しいと思いながら、いつだか歴史の授業で習ったことを思い出していた。




踊る阿呆に観る阿呆同じ阿呆なら踊らにゃそんそん。




初めてその言葉を知った時、良いな、と思ったし、そんな光景は今はもう想像でしか見れないな、と思った。
そんなふうに言うけど、今は踊るなんてバカのすることだとでも言いたげだと思う。みんながみんな観客席から降りてこないどころか、審査員席に座ってると錯覚している人もいる。
どっちが阿呆だよって毒付きたくなりながら過ごしていたけど、そういや、ここじゃみんな踊ってるな、と思った。しかも、勝手な振り付けで踊ってる。みんながそれぞれ、好きに音楽にのって踊ってる。
それに気付いた時、泣きそうになった。
あの授業中、観てみたかったと願った景色が実在した。自分の生きる時間で、同じ空間、私はいるじゃないか。




そして、梅田サイファーのパフォーマンスを生で初めて見た。
生でとうとう観れた。
元々7月に行くつもりだったライブが延期になり、それからKZさんとテークエムさんの出演するライブを観て、いつか"梅田サイファー"を必ず生で観るんだと心に決めた。
音源を聴きながら配信ライブを観ながら、想像して、わくわくした。
そうなんだよ、ライブという意味でも私は「夢にまで見た景色」を見たんだよな。




去年やっぱりぐったりした夏にほとんど知らないまま聴いた梅田サイファーのオールナイトニッポン。そこで語られたエピソードが本当に好きで、音楽の前にその空間を想像して良いな、と思った。
でも、音楽としてパフォーマンスとして出会った梅田サイファーは予想を遥かにブチ越えて最高だった。




楽しいこととか好きなこととか、ただただ日本語ラップサイファーが好きなこととかそれが最高にイケてることで楽しいことだってこととか。
自分が一度手放したものと重なるからかもしれないけど、だからやっぱりこれは勝手な感覚を大いに含んでるんだけど、今、私は梅田サイファーのパフォーマンスが観たかったし、観て良かった。
手放すもんか、と今年に入ってもう一回確認して、今年どころかいつも確認し直してるんだけど、それで間違ってないよと言われたような気がしたのだ。それが勘違いじゃないと思いたかった。勘違いだし身勝手な感傷でもいいから、それを音楽を聴いてもっともっと強化したかった。



楽しいとか面白いとか好きだとかそういうシンプルなものに戻ってこれた気がする。
私はこういうのが好きなんだと思ったし、こういうものにたくさん出会える自分の人生を肯定できるような気がする。



梅田サイファーの人たち、それぞれがパフォーマンスしてる時、すげえ嬉しそうで楽しそうなんだよな。あの景色、ずっと覚えてられるかな。忘れそうになったらまた観に行こう、聴きに行って最高の音楽で身体を揺らそう。
ひとまず、忘れないために買ったアルバムに書いてもらったサインを何度も見返しながら、あの景色を反芻しながらプレイリストに組んだ彼らの音楽を聴いてる。


うん、大丈夫だ。