えす、えぬ、てぃ

好きなものの話をしよう

GO ON

2月1日、初日観劇。
初めましての脚本家さんや、役者さん、劇場にドキドキしながら向かった。


公式サイトさんからのあらすじはこちら。
神奈川県大和市にある雑居ビルの1階に、関東近郊にチェーン展開を広げている
リサイクルショップ「EVER SUNNY」の支店があった。
その店は営業成績が悪く、いつ閉店になってもおかしくない状態だったからか、
社員たちはどこかピリピリしていた。
そして、この店には正社員を目指している2人の女がいた。2人はともに助け合う親友だった。
ところが真夏のある日、このうちのひとりが失踪する。同時に店の金庫から3000万相当の貴金属が消えていた。
誰もが失踪した女の持ち逃げを疑うが・・・

 

あらすじから若干話は変わっているような・・・?

差別、偏見がテーマの芝居で、
まさしくヒリヒリする、という観後感。
差別、偏見がテーマだけど、単純な差別は良くない、偏見は悪だ、というメッセージのお芝居じゃない気がした。あえて言うなら、差別や偏見は私たちのすぐ隣にある、というメッセージなのか。でも、なんか、そもそもどんなメッセージなのか、と考えるのが野暮な気がした。

物語の始まり、椎名さんの演じる店長の財布から5000円札が無くなった、という騒ぎから始まる。
犯人として疑われるのは、財布が置かれていたリサイクルショップの事務所にいた祥恵さん演じる店員。彼女は、中国人、という設定だ(すごく雰囲気があってビックリした)
店長と一緒にいた福田さん演じる店員の言葉に、ますますその場はヒートアップしていく。

盗った盗らないで揉めながら見えてくる店員たちの微妙な人間関係。
もうほんと、この怒鳴り合いがまた絶妙で!
ビリビリヒリヒリする気迫はあるんだけど、嫌悪感を抱かないギリギリのラインは保たれてた気がする。気迫はほんと、凄かったんだけど。目を背けたくなるような感じじゃなくてひぃってちょっと顔を顰めながらも次の会話をドキドキして待つような感じ。

そうして、事態は一応収束した、と思われた直後、事件は起こる。
社長が襲われ、店内の金品が盗まれる。犯人は、その直後失踪し連絡がとれない中国人の店員ではないか、と誰もが思う。


で、話のメインは本当に事件は事件なのか(=店の金品にかけた保険金目当ての詐欺ではないのか)と考えた保険会社の女がそれぞれの関係者と話をするある日をメインに、時間軸をいくつか行き来しながら展開していく。

まず、登場人物の設定が、ひとつひとつヒリヒリする。
基地問題やシングルマザー、差別。
それに、どんな人間関係にも存在する自分はこの人より優位だ、と思う傲慢さ。
もうそれが、憎い配置でそれぞれの人物に割り当てられて、そして、それが表情や言葉やほんの少しの仕草で表現される。それがたまらない。クセになる。スパイスみたいだ。違和感や、なんなら嫌悪感を覚えるのに触らずにはいられない感じ。

例えば、南口さんや福田さんのハッとするような目線。目が落ちるんじゃない?って思うくらい見開かれた目は涙の膜が張ってるようにも見えるんだけど、それ以上に怒りとか勢いとかそんなものが満ち満ちてて、目が離せない。
また化粧がね、すごくね、攻撃的なの。攻撃的なんだけど、攻撃力が高すぎて逆にこの人、ギリギリなんだろうなあ、と思ったり。
そんなところが、保険会社の女、の過去や店員の経歴が望まない形で暴かれた時のそれぞれの表情に出てて、また、惹きつけられた。

仕草でドキドキしたのは中国籍をもつ店員を演じた祥恵さんだ。
にこにこと無害そのもののように笑う、その顔。屈託のない動き。だけど、そのひとつひとつが、なんだかちょっと違和感があって、底知れなさがあった。
と、ここまで書いてそれはもしかして、私がその設定に対して持つ無意識な差別、なのかな、と思ったけど。
1番、何を考えてるのか、どうしたいのかがわからない。そこからくる、底知れなさが彼女にあったと思う。
その彼女が、たぶん、彼女自身の気持ちを吐露した、ラスト、松木さんに電話するシーンの表情がまたたまらない。
もう物凄く切ない。
そして、この表情をみて、ああこのふたりは本当に思いあってるんだな、と胸に沁みた。思いあってるし、それはたぶん、世の中というか、世間というか、たぶん、そんなおそらく彼女と松木さんに優しくなかったものたちになぎ倒されてしまわないように、ふたりで立ってるんだなあ、そうして出会ったんだなあ、と思わせて、ほんと、胸がじんじんした。

そしてそう思えば思うほどに、塩崎さん演じる松木さんの真っ直ぐな演技がさらにたまらなくなる。
最低だこいつら。。。と思う登場人物の中で、なんなら唯一、がんばれ、と応援したくなるひと。いやもしかしたら、ただ単純に私が彼の持つ悪意を見逃してしまったのかもしれないんだけど。その可能性も、十分あるって思わせるところがこのお芝居の苦くて最高なところだと思う。
終盤、おそらくこのお芝居の1番の山場に叫ばれる、メイと離れたくなかった!という松木さんの叫びが忘れられない。
塩崎さんは、超越した身体能力が魅力的な役者さんだけど、と同時に、台詞に物凄い力を宿らせる役者さんだな、と再確認した。ほんと、あの、叫び。
そして、松木さんの、目が青いと彼がハーフだと分かる前に気付いた瞬間、私、あ、と思ったのだ。
あ、目の色が違う、と思った。咄嗟に。反射的に。それがあまりにこのお芝居からすると、ざらざらした感覚で、
叫びに思わず涙が溢れたし、松木さんに1番心を動かしたのに、だからこそ尚更、あの、あ、の居心地の悪さ。
まさしく過ぎる感覚だった。

この物語には、なかなか酷いひとたちがたくさん出てくるんだけど、
1番くそーーー!!!!と思ったのはやっぱり、どうしても、谷仲さん演じる社長さん。
飄々とした、気のいいおやっさん感すらあるのに、
時々覗く傲慢さ。そして、それを隠してるものが決壊した瞬間の暴力性。
もうほんと、怖かった。
ひとってこんな酷いことを平気で口にして、そんな暴力をふるえるのかってくらい圧倒的暴力で、怖かった。


それと、怖かったといえば、椎名さん演じる店長のラストシーン。
あのシーン、めちゃくちゃ怖かった。サングラスを、かけて本当になんでもないように、アウトだわ、という、そのことが!
もちろんそれ以外にはきもち悪さや怖さはこの女性は度々あって。
反対運動について語るときの薄ら寒さとか、それを認めないもどかしさ(と、それはなんとなく覚えのあるかんじ)も印象的だったんだけど
それらを飲み込むような、飲み込むというか黒く塗りつぶすみたいなラストシーン。
だってほんと、何もないようにやるのがほんと
ほんと
その上、サングラスはかけるんだよなあ。目は隠すんだなあ。それもまた、ほんとに。


パンフレットの、脚本演出を担当された中村さんのコメントが心に残った。
良薬ほど苦い。
終盤、この話はどこに向かって何を残そうとしてるんだろうと思いながら見ていた。そして結果、分かりやすいものやこういうことだよ、というメッセージはなくて、ただ軽くて惨いアウトだわ、という台詞がぽつんと舞台上に残された。
おかげで、私はまだあの舞台のことを考えている。どうにも、口の中に残った苦さがとれない気がする。