えす、えぬ、てぃ

好きなものの話をしよう

ペーパーカンパニー ゴーストカンパニー

脂の乗った東西の役者さんが集うガチンコ企画、OIL AGE。
初めて観たのはミキシング・レディオだけど、
大好きなこの企画が帰ってきたということで、もうめちゃくちゃ楽しみにしていたペーパーカンパニー ゴーストカンパニー。

そんなに大きくない日本ではあるけど、
大阪と東京はそこそこ遠い。
普段遠征してるから分かる。そこそこ遠い。
どこでもドアの開発が待たれる。
そんな日本の、離れた地域の役者さんを一箇所で見れてしまう、というもう、本当に、
企画運営してくださった方には感謝しかない。
幸せの権化だと思うし、今後も続いていってほしい。もうずっとこれは言う。言い続ける。

それはさておき、お芝居の感想。
まずは、あらすじ。

日々、締め切りに追われる新進気鋭のタブロイド紙・サブウェイリポート。
滑走路事故、人権団体のクレーム、インサイダー取引、届かない原稿、脱税疑惑。
刻々入り続けるニュースの奔流。次々起こり続けるトラブルの山。
戦場と化す深夜の編集局に、予期せぬ来訪者、幽霊が訪れた。


真夜中の新聞社に、小さな奇跡が舞い降りる・・・。

 

お話のメインは、ある締め切り直前の新聞社、
記者のひとりである楓が、
一年前に亡くなった、同僚の陵の奥さん春子を目撃することから始まる。
で、締め切りと戦いながら作業をする新聞社のメンバーを巻き込みながら楓は春子のことをなんとか陵に伝えようとしたり、と思えば人権団体からのクレームと戦ったり、というドタバタ会話劇。話が進むにつれ、奥さんの死からすっかり変わってしまった陵の本心が吐露される、という、
もう、松本さんの脚本ほんと好きー!と叫びたくなるようなボリューミーさ。
それでいて、見てる人が疲れない演出、役者さんたちのお芝居。

主演の教光さんのお芝居は何度か拝見してるけど、陵ほんと凄かった。
前半の無気力さからの、春子への想いを吐露するシーン。
水がコップから溢れるのを見るような気持ちになった。
ずっと、足掻いてしまった10分間を後悔していた陵。
震えながら、デスク・日比野さんに後悔を語るその姿、横顔に光る涙。
もう、ほんと、うあー人間ってこんなに美しいのかって心が震えた。
春子がいることを信じてからの、春子を追い求める陵は、本当に子どもみたいで、
そんなに沢山表情がある役ではないんだけど、ひとつひとつのインパクトと、そこから伝わる愛情が凄くて堪らなかった。

そして、春子さん。
春子さんが登場して新聞社の面々の顔を覗き込んだり仕草を真似したり。
なんでか、無性にこのシーンで泣けてしまった。
なんだろう。春子さんって人柄が最初のあのシーンですごく伝わってきた。愛おしかった。
ギアのドールとしても活躍されている兵頭さん。ノンバーバルパフォーマンスの中でのその表情や仕草の雄弁さがお芝居でも観れて幸せだった。
もう本当に春子さん可愛い。
死んでしまった悲しさとか、そういうの感じないくらい「普通」だし、「明るい」。
それがまた、涙腺を刺激する。
楓とのやり取りも好きだったなあ。
ひとつひとつの台詞や仕草が本当に「沢登春子」だった。大好きすぎる。
友人たちと終演後ラーメン食べながら沢登夫婦の結婚生活を見た気がした、って話してたんだけど
ふたりが直接話すシーンは少ないし、どんな夫婦だったかは、そんなに沢山語られてなくて、
最後のシーン、と、車谷さんに惚気てるシーンくらい?
なのに、まるでよく知ってる大好きな友人夫婦かのような錯覚に陥ったのは、
ふたりから滲み出る空気感なんだろうなあ。

幽霊コンビの緒方さん演じる車谷さんも凄く良かった。
楓に、体を借りて陵に語り掛けるシーン。
当たり前のことを言ってるんだけど、説得力がすごい。心に沁みる。
説教臭い台詞ではあるんだけど、
春子さんとふたりでお喋りしてるシーンの愛嬌とか、君江さんとのシーンの優しさが、
あのシーンに繋がってた気がする。
君江さん良かったなあ。
演じていた石井さんはまだ20代とのことだったけど、十二分に、可愛らしいお婆ちゃんだった。
妙にリアルじゃないところがいいというか、
デフォルメされたお婆ちゃん像だからこそ、あの車谷さんとのシーンとか、消防員を殴ってやったよ!とかが面白かったり可愛かったりすると思うんだよなあ。

そして、楓さん。
椎名さんの台詞無双。
東京公演の評判、いやむしろ稽古の時からその噂は大阪まで届いていて、めちゃくちゃ楽しみだった。し、もう、期待以上。
椎名さんのぶわーーーー!!!!!ってする台詞回しが本当に好きだ。ぶわーーーー!!!!!ってしてるのに、全部きちんと届くのも、台詞だけじゃなくて、動きも面白いのも、本当に好きだー!
前半のコメディ部分をぐいぐい引っ張りながらも締める空気感はガツンと変える楓さんににやにやしてしまった。本当に好き。
そして、ね、陵や春子さんへの愛情がね。
いーよ、って笑うくしゃっとした笑顔や、
あんたなんのために戻ってきたの?って必死に春子さんに呼び掛ける姿は
思い出しただけで涙腺が緩む。
椎名さんの表情は、柔らかくて本当に心にじわぁっとくる。
最後の投稿を読んだ後の、あの表情が観客の観後感を更に幸せなものにしてくれたと思う。

出てくる登場人物全員を好きになれるのが、松本さんの脚本の好きなところのひとつだ。

大阪東京公演でキャストが変わった人権団体の人々と、消防員たち。
(東京キャストもほんとにほんとに観たかった。DVD待ってる。。。)
それぞれ、シリアスシーンの役割とコメディシーンの役割とで分かれてるんだな、よくよく考えれば。
人権団体の島田・遊佐を演じた上杉さん、山本さん。
あの絶妙ないやぁな感じ!!!!
もっともらしい正論、と思ってしまったのは私がサブウェイリポート寄りでお芝居を観てたからなんだろうけど。
たぶん、このあたりは特に人によって感じ方が違うんだろうなあ。
個人的には、ミキシング・レディオからがらっと印象が変わってすごく、うおー!と感激してました。当たり前かもしれないけど、二度目ましての役者さんに全然違う雰囲気で再会できると、凄く興奮するしワクワクする。またどこかで、違う役で出逢えたらいいなあ。
そしてコメディシーンを担ってた消防員!
青木さん有北さんの全力で笑いを取りに行く姿に確実に会場の温度が上がってた。凄く関西ー!と思うお芝居がたくさんあったんだけど、東京公演だとどんな感じだったんだろう。
コメディシーンではあるんだけど、コントではなくて、
あくまで消防員の市原と仁川で、
でもともかく全力な楓たちとの応酬がもう、堪らなかった!

そして、大好きなサブウェイリポートの面々(と、プラスひとり)である。
もー宮島さんが大好きなタイプの宮島さんで前半ひったすらににやにやしてた。
叫びながら仕事をする可愛さったら!
可愛くないのが可愛い。あざとくない、もう、あの、全力感!
飯嶋さん演じる君島くんもそういうところがあって。
終演後お話しした際、格好良かったです!って思わず言ったら格好良くはないです!って返されたんだけど、
いや、確かに役としては格好良くないし沢山笑ったんだけど、その全力っぷりが面白くて格好良くて好きでした。
なんか、とか書くと全力考え出ちゃってた(ニュアンスのはなし!)みたいな文になってしまってるんだけど、
そうじゃなくて
もうそれぞれ、ノンちゃんで君島くんなんだよ
でも、そう思ってひたすら劇中笑ったりしてたのが堪らなく楽しかったし、
それは多分、思い切り!だったからだろうなあ、と思うのです。
思い切り!って、見てたら笑っちゃうし泣いてしまう。単純に好きなんだと思う。


友人も言ってたけど、松本さんの描く「お仕事像」が大好きだ。
明日からの自分の日常を大切に一生懸命過ごそう、と毎度思わせてくれる脚本家さんだと思う。
どんな仕事にも、胸を張れるような、そんな気持ちになる。
今回だと、早川さん演じる局長、宇田川さん演じるデスク、陵と一緒に取材をしていた浜口さん演じる菱沼さん、そして、谷野さん演じる気持ちのいい関西弁が印象的だったカメラマン妙子さん。
もう、ほんと、その背中の格好良さったら!
(余談だけど、STAR☆JACKSさんやpeople purpleさんの役者さんをこの舞台で拝見できたのが更に嬉しかった。やっぱりいい企画!)
それぞれが仕事について語るシーンは勿論のこと、何気ない仕事の芝居がほんと、惚れ惚れするくらい格好いいのだ。当たり前にやるべきことを淡々とする、そのシーンに痺れる。
局長の、ハワイに行けなかったことをボヤキながらも出てくる的確な指示とか、
陵に語り掛けるデスクの力強い気持ちとか、
菱沼さんの手帳のやり取りは泣かされた。どちらかといえば、舞台上の菱沼さんはあまり主張が激しくなかった印象があった分、あのシーンの強さにハッとした。
妙子さんはほんと、関西弁を普段話してることが嬉しくなるような、魅力的な関西弁だったー!人権団体へ感じたもんやりをバッサリ一刀両断してくれるような。格好良かった。

あと、柳田さんの常に虎視眈々と記事の場所を狙うのも、良かった。すごく。

あの人だけ切り取ったらスタイリッシュでどちらかといえば仕事できる人ポジションなのに、新聞社の中だとコミカルでむしろ可愛らしい人に見えた。楓とのいがみ合いも可愛かった。

あの塩梅がまた、全体的にいいんだよなあ。


ペパカンは観ていて何度も空気がビリビリと震えるような気がした。
たぶん、映像じゃ分からない。
目の前で、役者さんが笑って泣いて、叫ぶ。
生きてる、と思う。
あの空気こそ、ペパカンの奇跡だったと思う。
派手ではないし、奇をてらったお芝居でもない。
でもだからこそ、私たちの日常に地続きなあの人たちが本当に愛おしいのだ。