えす、えぬ、てぃ

好きなものの話をしよう

ココロ踊ル

自分の好きなものを信じてるひとが好きだ。

だから、ココロ踊ルのコンセプトや企画趣旨、思いに触れた時に本当にわくわくした。
ENGの佐藤修幸さんが全面協力して松本稽古さんの「これが創りたい」を最高のキャスト、スタッフの力が集結して生まれたお芝居。
それだけで、もう「ココロ踊ル」。


舞台は架空の国。
そこではダンスと政治が密接に繋がり、男性以外がダンスを踊ることは許されない。「女性らしく」を厳しく監視され、騒いだりお酒を飲んだりすると「女性らしくない」と言われるし、ダンスなんてもう、もってのほかだ。
そんな中で、こっそり機織り工場で働く女性たちは夜な夜な踊る。機織り機の音に紛れ、踊る彼女たちの、そして男性やその国が大きく揺れ、変わる。
ある日、大国である隣国の青年が密入国してしたことによって…。



そんな「女性のパワー」を前面に押し出した作品だったわけだけど、なんだかずっと愛おしかった。
ダンスが上手い人がともかく出てきて、定期的にダンスシーンがやってくるから数分ごとにわくわくしたからかもしれない。



「身体が勝手に揺れる」
私はギリギリ、ダンスが必須科目になった時代を体験した人間なんですが、ダンスがともかく苦手だった。リズム感もなく、かつ、運動能力がともかくなかったものだからダンスは決して得意ではなかったし、踊ってて「なんか変」と笑われた経験も多いからダンスが好きかと言われると難しい。
それでも見るのが好きで、音楽を聴いてるとわくわくして勝手に身体が動くし、嬉しいことがあるとひっそりこっそり小躍りする。
なんだか、そんなことを思い出した。
抑圧されてる女性たちが機織り工場でひっそり踊るシーン、音楽や機織り機の音ともに笑顔でくるくると踊り、腕を上げ、足を上げるシーンで不思議と涙が出た。楽しかったし、にこにこした。

嬉しいな、楽しいということを身体いっぱい、表情いっぱいに表現する人たちがそこにいることが、たまらなく嬉しかった。



そこにあるのは単に「抑圧されている怒り」だけではなかった。反骨精神的にだけではなくて、ただただ、「楽しい」から「好き」だから踊る。それ以上でも以下でもなく、そこにある人たちの気持ちがただただ、気持ちよかった。



ところで、私は松本稽古さんのYouTubeで投稿されているダンス動画が好きなわけですが
中でも、YOASOBIさんの群青を踊る動画が大好きだ。





投稿された1年前から、繰り返し繰り返しみている動画で、見るたびに不意打ちで泣きそうになる。
好きな事を続ける人に捧ぐ、とタイトルに書かれたこの動画が、私はとても好きだ。
好きなものややりたいこと、それを信じる人たちが好きで、その気持ちがたっぷり詰まってるように感じるから、本当に好きだ。



例えば、そこにはいろんな感情があるだろう。プラスな感情だけではなく、マイナスの感情……怒りや悲しさ、悔しさ、そんなものだってあるだろう。だけどそれを全部飲み込んで、煮詰めて、それでも、と好きなことを手放さない人たちが本当に好きだ。
機織り工場で踊る彼女たちを観ながら、そんなことを思い出していた。
あの動画が好きで、色んなものを楽しい!に変換して踊ってくれる、そんな企画を作ってくれるこの人が、そこで踊るこの人たちが好きだと心の底から思った。そこからこの舞台は地続きだと思った。


物語は、やがて自国の領地などを賭けて、ダンスバトルをすることになる。そこで、最初こそ「男性だけ」にこだわって踊ろうとして、うまくいかず、男女混合でのダンスを作り上げ、ダンスバトルへと臨んでいく。



言葉にすると「まあそういう展開になるよね」なんだけど、当然、そこにいる人たちの感情、なにより「ひっそりと踊ること」を受け入れてきた人たちが「自分の声」を取り戻していく彼女たちが愛おしくて可愛くて最高で、そこから変わっていくダンスが本当に好きだった。



そして、それを「ダンスバトル」関係なく、それぞれがそれぞれのダンスに楽しく、ワクワクしていること含めて、最高だった。

 


楽しいことはすごい、といつも思っている。正確に言えば、思っていたい、と願ってる。だから後半、ずっと、楽しいことはすごい、と思い続けるこのお芝居が大好きだった。
それが、何より松本稽古さんはじめ、作り手の皆さんが「面白いことはすごい」「楽しいことはすごい」「ダンスはすごい」「お芝居はすごい」をまっすぐ信じて、形にしてくれていることが、本当に本当に嬉しかった。


配信ではあったけど、劇場の揺れる空気に触れた気がした。
一歩踏み出せば、好きなものをやりたいことを信じて、愛して行動すれば、何かは変わる。それは世界、なんて大きいものの話ではないかもしれない、自分、という話なのかもしれない。だけど、そんな小さく近いそこが明るい方に進めることこそ、すごいことなんじゃないか。



ココロ踊ルを観て、確かに踊った気持ちがそんなことを繰り返し、思ってる。