えす、えぬ、てぃ

好きなものの話をしよう

週一で笑わせてくれる人々

「最近思い切り笑ったことある?」
ある日突然、職場の人に言われた。
会話には時々、ある程度テンプレートがあるし、たぶんそれは「あーなかなか声あげて笑うことないなあ」というリアクションを待っていたんだと思う。私もそのつもりでいた。
しかし、その時、頭の中でげらげら笑う声がした。



「や、笑っとるわ。わりと」



Creepy Nutsを聴き出したのは本当に何気ないきっかけだった。ネットで見たシラフで酔狂の歌詞が気になり、つぶやいた。


Creepy Nuts気になるんだけど、何から聴けばいいんだろう。


そんな呟きに優しいフォロワーさんたちがお勧め曲を何曲か教えてくれて、それをYouTubeの彼らの公式チャンネルで探し、聴く。
刻まれるリリックにも、音楽にも良いな!!!と思った。ストレートで聞き取りやすい歌詞、ラップは聴いていて「耳が喜ぶ」感じがした。


これはまた素敵な人たちを知ったなあと、まだその時は程々の距離感で楽しんでいたと思う。
気になる、がさらに一歩進んだのはたまたま再生したradikoのタイムフリーだ。


星野源さんのオールナイトニッポンを聴くようになっていた私は他のラジオ番組も気になるようになっていた。だから、時々、気まぐれに目についた番組をタイムフリーで聴く。
その中で、あ、そういやCreepy Nutsさんもラジオやってるじゃないか、と気付いた。なんなら、いつも聴いてる源さんのラジオのすぐ後だ。
これもなにかの縁だろうと再生したその日は、ちょうど松永さんが広島のライブで寝坊した回をやっていた。
後悔した。何故外出中に聞いてしまったのか。しかし後悔してももう遅い。停止ボタンを押す気はさらさらなかったこの話のオチが聴きたい。爆笑するこの人たちの声を聞いていたい。
ひとしきり盛り上がった彼らが、一曲の曲をかけた。


グレートジャーニー。その曲のイントロが流れた瞬間、うっそだろと呻く。


それは、ライブであちこち回る彼らを歌った曲である。
いやもう、そんなの、完璧過ぎる。あまりにも綺麗なオチだ。落語の最後一言、頭を下げて幕を閉じるような気持ちよさすらあった。



その週から、私は彼らのラジオに夢中になった。
もちろん、毎度毎度綺麗なオチを付けるわけではない。別にそれはそれで良いのだ。
最初に書いた通り、私は毎週、ひとりでラジオを聴きながら爆笑している。さすがに初回の失敗を活かし、なるべく家で聴くようにはしているけど、時々、散歩中に聞いて笑いを噛み殺す羽目になる。


でも、それが、ものすごく楽しい。


ふたりの会話は、大体、本当にくだらない話題だったりする。それにリアルタイムで聴いてるリスナーがのっかり、それをさばいてまた笑い、のっかって。
まるで、学生時代、部室や教室で繰り広げていたような馬鹿話を聴いてるような気分になる。

ふたりは、それぞれラジオの時間を多忙になってきた中で友達であるお互いとじっくり話せる時間だといつかインタビューで語っていた。



そんな彼らにとっての彼らのための時間が私にとっても心底おかしくて、1週間の大切な時間になっているのだ。

そして、そんな「ラジオのなかの友達のような時間」だけに彼らの魅力は留まらない。
もちろん、最初に出会った音楽だって知れば知るほど、最高なのだ。



勧められた曲をきっかけにYouTubeを漁り、Spotifyを漁り、新曲のたびにワクワクした。
ちょうど、歳が近いということもあるのだろう 。R-指定さんの刻む言葉は、どれもストレートに届いた。それが最高に格好いい音楽共にど真ん中に飛び込んでくる。


陰キャのヒーロー。
そう、彼らは表現されることがある。
HIPHOPというクスリに暴力、女、みたいな、ザBAD-BOYな背景を背負わず、ただただHIPHOPが好きで音楽が好きな彼らが、そのフィールドで活躍する。
イカツイ系とは遠い、むしろ親近感すら湧く彼らが、場を沸かす。たしかに、その姿はスカッとするものがある。


そして私がその中でも怯まず彼らを好きだ、と言えるのは、R-指定さんがはっきりと「俺は俺のために歌ってる」と言い続けるからだ。
彼らの曲に自分を重ね、日々の鬱憤や焦りや怖さを誤魔化したり笑い飛ばしたり真正面から見据えたり。
そうしながら、でも、その音楽は彼ら自身のためにあるものであり「見たお前が勝手に重ねる」だけなのだ。だから私は、彼らの音楽に安心して勝手に自己投影し、それから、まあなんとかなるか、なんて思ったりするのである。


そして、音楽自体も楽しい上に、今年の春、初めてオンラインで観た彼らのライブは、めちゃくちゃに格好良かった。
その上、初めて聴いたあのラジオの回のようにMCとセットリストがこれ以上ないほどにハマり、まるで一本の美しい物語を描くみたいに思えた。
とんでもないライブを観た、と思った。ライブのつもりが、お芝居を観たあとのような気持ちにすらなった。


彼らは、本当に彼らのために音楽を作ってるのかもしれない。だからこそ、その音楽は一歩一歩、彼らの足跡になる。
そして、それを繋げてみることができるライブは、一つ壮大な物語なのだ。


週に一度、訳が分からないくらいくだらないことで笑わせてくれる、まるでクラスメイトのような彼らが紡ぐこの話がこれからどんな景色を見せてくれるのか。私は本当に本当に、楽しみなんだ。