えす、えぬ、てぃ

好きなものの話をしよう

missing 〜強がり彼氏と食べちゃう彼女〜

ご飯が食べることは、生きることだ。
だからか、普段ファンタジーに対する解像度が高くない私にも物語がするりと入ってきた気がする。
食べること、その当たり前の生きていく上で絶対に切り離せないその行為を嫌悪する日が来たらどうだろう。嫌悪して、それでも生き物は食べないと生きていけない。食べたいという気持ちと食べたくないという気持ちの真ん中で過ごすのはどれくらい苦しいだろう。


そういうことを考えれば考えるほど、思う。
"食べること"は生きることなわけですが、
それを「最低限」仕方なく、ではなくて"楽しむ"彼女が好きだったな。
そして「人間が"食材"ではない」はたしかにいつから生まれた勘違いなんだろう。


missing 〜強がり彼氏と食べちゃう彼女〜

人を食べるようになってしまったイーター、ハーフ、そして食べられる可能性が生まれた人間。
ファンタジーなその世界観の中で、ひりひり焼き付くような言葉がポツポツあって、考えている。


さて、そんな中でもちろん、食べること食べられること、またこの物語の大切な要素である「足りないこと」「みんな足りないものを求めてる」というメッセージについても当然色々と考える。
ただその中でやっぱり私は作中登場するバンド、crossborderの話をしたい。
私はこの「つよたべ」を観ながら推しとオタク、について考えてしまったのだ。


それは勿論、そのバンドのリーダーを大好きな役者さんである亜音さんが演じているからというのも大きい。
だけど、それ以上に七海とろろさんが演じる「オリヴィエ」の存在が心に刺さったからだと思う。

オリヴィエはこのバンドのファンで、いわゆるオタク、である。そして、その熱量のままに今はバンドのマネージャーをやっている。超行動派のファンだ。
メンバーにどストレートに愛情を伝えて、バンドの為にくるくると動き回るオリヴィエはめちゃくちゃ可愛い。

ところで、こういう「オタク」の役を見ると私は時々そわそわしてしまう。自分がそうだから、というのもあるけどテンプレート的な描かれ方をするとつい苦笑してしまうし、
リアリティがあったらあったで共感性羞恥心みたいなものでゔゔゔと呻いたことも2度や3度ではない。
でも、このオリヴィエはなんか、観ていて全然そんな感情が起こらなかった。なんなら、なんだか、妙に元気にもなった。めちゃくちゃ可愛いな…!ってにこにこしながら、その姿に元気をもらった気がする。

とろろさんご自身が「推し」が、いるからかもしれない。Twitterなどで好きなものの話をする様子をもともと一方的に知っていたことによる先入観なのかもしれない。
それは分からないけど、ともかく、本当にオリヴィエが楽しそうで嬉しそうで、なんか、純度120%のラブがあって、それがすごく、心地良かった。
純度、というとなんか、言葉がズレるけど。

オタクには色んなタイプのオタクがいる。
現場・茶の間、みたいな話ではなくて愛情表現だったり理由だったりは千差万別だ。

そして彼女は、バンドへの愛のままマネージャーになったというのも納得なほど「推しに背筋を正されるタイプ」のオタクである。
しかもそれが言葉としてではなくて、行動や生き方に表れていくタイプだ。もう、そんなの、めちゃくちゃ格好良い。



アクションシーンの中で、オリヴィエがネイサの決め台詞を言うところがほんっとーに好きで。
なんか、無性に泣けた。彼女にとってのcrossborderの大きさが一番あのシーン伝わって泣いた。
大好きなんだな。大好きで憧れで、好きでいるだけでどんどん強くなれるようなそんな存在なんだな。
「こう在りたい」の形で、本当に物凄く好きだ。


ということを考えながらふと「みんな足りないものを求めてる」という言葉がすとんと落ちてきた。更に言えば、竹石さん演じるプロスペールの「繋がりたい」という言葉を思い出した。

欲求、というと自己内で完結するもの、他者に対して、あるいは社会に向かうもの、とかよくある哲学の教科書に載ってた図式を思い出す。難しいことはよく分からないから割愛するけど。
なんか、そういうのだよな、と言葉にならないままのもやのようなものを手で触って確認する。


作中、食べたい食べたくない、繋がりたい、尊い、とか、なんか、色んな「こうしたい」という言葉や感情が描かれる。それは全部、実は一緒なんじゃないか。
私は感傷的なのでそれはつまりあいしたいってことなんじゃないか、と綺麗でそれっぽい言葉に纏めそうになるけど、でもなんか、ちょっとズレるな。

色んなオタクがいるので、それが全てだというつもりはないけど、でももしかしたら「推しが好き」という時、それは足りない何かを求めて、なのかもな、とも思った。
それは自分に足りない、じゃなくて、もしかしたら世界に足りない、の話なのかもしれない。
欲しい、と思うこと。あるいはそれを我慢すること。

なんか、ほんと、つよたべの人たち、みんながみんな愛おしいからさ。その上、観てると心臓がぎゅっとなるような苦しさがある。
それに、意地悪!と叫びたくなるくらい残酷に「解決しない問題がある」ことをつよたべは最後、描いて残した。
し、意地悪!と書いたけど、そんなところが好き。もしあの話がハッピーエンドでみんなが笑ってる、で終わっていたら私はここまで考え込んでなかったと思う。


じゃあその問題が解決するのはいつか、と聞かれたらきっと解決する日はない。綺麗に全て問題がなくなりましたやったー!なんてことはないし、時間薬、なんていうけどそれが全員に当てはまる保証もない。
ハッピーエンド、ではない。終わらない。彼らは、これからもあそこで生きて、ご飯を食べる。できたら、それが少しでも幸せな食事が多いと良いなあと願うけど。



それでも、好きだ!って気持ちを真っ直ぐ表せたら、とオリヴィエの姿に元気をもらった私は思う。そうすることが、美味しい!という幸せを一つでも多く増やすことなんじゃないか。
そんなことをこじつけのように考えるのは、私がオタクだからかもしれない。