えす、えぬ、てぃ

好きなものの話をしよう

mellow

別に、映画に救われなくて良い。
劇的に何かが起きなくたって良い。
ただ約2時間くらい、優しくて可笑しくてあたたかな空気の中にいた。それだけで、十分、奇跡的みたいな話じゃないか。


なんとも不思議な心地になったので、ゆっくり煮詰めて考えていたらそんな結論が出た。

公式サイトより、あらすじ

 

オシャレな花屋「mellow」を営む夏目誠一。独身、彼女無し。好きな花の仕事をして、穏やかに暮らしている。姪っ子のさほは、転校後、小学校に行けない日がたまにある。そんな時、姉は夏目のところにさほを預けにやってくる。

さほを連れていくこともある近所のラーメン屋。代替わりして若い女主・木帆が営んでいる。亡くなった木帆の父の仏壇に花を届けるのも夏目の仕事だ。

常連客には近くの美容室の娘、中学生の宏美もいる。彼女はひそかに夏目にあこがれている。

店には様々な客がいて、丁寧に花の仕事を続ける夏目だが、ある日、常連客の人妻、麻里子に恋心を打ち明けられる。しかも、その場には彼女の夫も同席していた…。

様々な人の恋模様に巻き込まれていく夏目だが、彼自身の想いは……。


観に行った帰り道、田中圭さんのことを好きになる映画だったねえと話しながら帰っていた。
小さな民家のような花屋さん。
そこで働く夏目さんは、色んな人に好かれている。そして夏目さんを好いている人もまた、誰かに好かれてる。
重なったり重ならなかったりする想いは「片思いの恋愛ストーリー」と言ってしまえばそれだけだけど、なんとなく、そういうとむずむずとする心地もあるのだ。


伝えて、ありがとう、でもごめんね、と言って物語は進んでいく。

穏やかで淡々としていてそのくせ少し可笑しい。
例えば私が今まさしく片想いの真っ最中で、しかもそれが視界に笑ってる顔が映っただけでその日一日幸せになるような恋だとしたらまたこの映画への印象は変わっただろうか。
ただ別につまらなかったわけじゃもちろんなくて、むしろ心地良さに微睡むように私はこの映画を観てたんだけど。

玄関に花を飾る夫婦と、閉店のお知らせのシーンが特に好きだ。

なんか、好きなんだから仕方ないよなあと夫婦のシーン思ってて
コメディにも似た、とんちんかんさもあるんだけど、でも好きだから黙って夏目さんに想いを伝えられずに(そうして自分が抱いた気持ちを罪、なんて呼んだりして)あるいは、ままならない気持ちを抱えて苦しむ相手に伝えなよ、なんて言ったりして(結果、自分が一人ぼっちになっちゃうとしてもだ!)
いやもう、可笑しいだちゃ可笑しいんですけど、でもだいたい、誰かを好きだって想う気持ちって可笑しいもんな。

それで、閉店のお知らせ、の木帆さんの台詞、めちゃくちゃ、そうなんだよ、と思って聞いてて。
そんな今更、って思っちゃうことがあってだったら、とか思われるんじゃないかって動けないこともあって。そういうのをあのテンポで話されるのすごく好きで、当たり前みたいに「情じゃダメですか」って言ってのけるものだから、笑ってしまった。
そうだなあ、ダメじゃ、ないなあ。
同情だって、立派な情だったな、そういやな。
その上、最終日のにこにこと薔薇を持って帰るお客さんの笑顔を見てると、私までにこにこ笑ってしまう。

「ブス」という言葉についての今泉監督のツイートを私は時々思い出すんですけど(人の言葉を思い出すのは最早癖なので)
もしも、とびきりの愛情をもって、その言葉を使うとしたら。
私はその言葉が嫌いなので、もっと違う言葉を探して欲しかったと悲しくなったり分かり合えないんだろうなあってそっと身を引くような想像ばかりしてたけど、もしかしたら、それもありって思える瞬間がくるかもしれない。
私はその言葉は使わないけど、でもその言葉を使って伝えようとしたその人の愛情とかは、否定せずにありがとうって、言いたいなあと思う。
でもごめんね、傷付いたよって言うかもしれないけど笑

話がズレたんだけど、ともあれ、mellowはなんだかそんなぼんやりと「優しく」っていうと少しズレちゃうような空気で時間が過ぎていった。

在るというのは、ホッとするものなんだな。

劇的に何かは起こらないけど、ただふくふくと空気の中に漂うような時間を過ごすことも、
映画を観る幸せっていうのかもしれない。