えす、えぬ、てぃ

好きなものの話をしよう

となりのところ

面白い会話劇をする劇団さんがあるから、と友人に誘われた。

あの、私はお芝居に誘われるのが大好きなんですよ。
正確には、誰かの好きなものを紹介されるのが。布教されるってのとは、ちがうんです。紹介、なんです。
布教はたぶん、誰でも良くて、紹介、はそれこそ、結婚する相手を紹介するようなそんなニュアンスで受け取ってしまう。
(そんなつもりなく気軽に紹介してくれてる人たちもいるよね、ごめんね!
なんか、紹介、ってこう、緊張感があるんです、私がする時。大好きなものだと特に。
嫌いだったり気に入らなかったりどうしようかなって不安と、だけどこの人に好きになってもらいたい好きだろうな、ハッピーだろうな、みたいな。
だから、私はとても、嬉しかった。
ので、空晴さんという綺麗な名前の劇団のお芝居を、観てきたのであります。


これは、そしたら幸せが倍増したよ、という話。

 

いまのところ大丈夫です。でも、ホントのところは・・・
三軒の隣り合わせの家。そこに暮らす三家族。
幸せそうに見えたり、うさんくさそうに見えたり・・・でも所詮は他人。お隣さんたち。
ある日、その真ん中の家が今まで低かった隣同士の塀を高いブロック塀にする計画を提案し工務店を呼んでしまう。その工務店員が実は一軒の家の家主の幼馴染で、そこから今まで知らなかったご近所さんの姿が見えてくる。

 

 

 

客席について丁寧に作られた舞台セットにまずにやりとしてしまう。
ともかく、どれもこれもに人の手を感じる作品だった。
派手さは一切なく、ただただ、描きだすみたいなお芝居。だからしみじみと、私の心の中に残ってる。

 

三軒の古い戸建。そこに住む人、来る人。
当然、この人は誰で、この人とこの人はどういう関係で、なんてことは語られない。語られないんだけど、彼らの会話でなんとなく少しずつ、理解していく。
その感覚の、あー日常、みたいなあの空気感。
全部は話さない。生きてるので。
なにもかも明け透けになにをどうしてどうしたい、なんて私たちは口にしない。
そんな生活を送ってるから、彼らの気持ちが尚、沁みるのだ。

となりの先生の秘密、遊びに来た「息子」の秘密、荷物を運ぶ親子の、あるいは賑やかな夫婦の「秘密」、そして、なかなかの年齢で新たな仕事を始めた工務店のおじさんの「秘密」


秘密、なんて書いたんだけど、それは彼らの生活で人生でしかないんだよな。
開けっぴろげてない、ずっとそこにあるもの。
でも、すれ違ったら気になっちゃうんだよね、なんかね、妙にね。

 

ともかく、面白い会話を挟みながらふつーに時間が過ぎていく。その、愛おしさ。だんだん、私も庭先にお呼ばれして、奥さんに睨まれながらお茶を飲んでるような気がしてきた。
ケラケラ笑いながら、時々、なんだか不安そうだったり泣きそうな彼らの表情が気になったり、でも踏み込めなかったり。
そうしながら、友人のことを思い出していた。
高校の部活の友人が再会するシーン、忘れた人と覚えてた人。その会話、覚えてることもあること、同じところで時間を過ごしたこと。


あの、私は部活が大好きだったので、それこそメンバーに軒並みならない気持ちを持ってずーーーっと過ごしてたので、
台詞の忘れちゃうんですかね、いつか、がとんでもなく、刺さった。
今は、たぶんあの役の彼に歳が近いけど、でも、いつか。
そんないつかを思わせる空気感だったような気がするのだ。それくらい、彼らが身近だったんだ。

そして、だから、ラストシーンの照明が焼き付いてる。目に。
なにを書いたらいいんだろう、感想に。
決して抽象的じゃなかったけど、うまく言葉にならない。

だけど、いつか、電車の中で泣き出してしまった時の気持ちが救われたり、いつかくるこれからを愛おしく思ったり、これまで、を思ったり。


なんか、そういう、時間がとんでもなく愛おしくて。それは稽古期間だけじゃなく、舞台にいる人たち全てのこれまで、とこれから、が交差したように思えてしまったんです。

だから、カーテンコールの、またみんなで元気に会いましょうね、に泣いてしまった。
出逢えて、すれ違って。だから、全てがうまくいくとも何もかもを分かち合えるとも、限らないどころか、そうじゃない可能性の方が高い。
だけど、それでもいいじゃないか。
なんとなく、触れたところがあったかかったり、今大丈夫でもいつかダメなら、その時そこに私がいたなら、美味しいものでも食べましょう、話したければ話せばいいし話したくないなら最近見たすごく美しいものの話をお互いに見せっこしよう。
なんか、そんな、夢のようなことを思ったんだ。


そんな気持ちが、私がこのお芝居が好きな理由でした。
空が晴れる。
それを、嬉しく思う。
まさしく、劇団の名前そのままのようじゃないですか。
また、元気に、こうしてお芝居に出会えるよう私も祈ってます。なので、どうぞ皆さんお元気で。