えす、えぬ、てぃ

好きなものの話をしよう

ブラック西遊記2020

ブラック西遊記を観る度に思う。
「たったひとり」に出逢うことは、幸せだけど同時にわりと怖いことだ。
かそけき恋の病にも似て。
トクさんの台詞の言葉選びがたまらなく好きなんだけどストレートなまでに表現される三蔵法師の心うちのぐちゃぐちゃになって迷っていく動きを思うたびに呻いてしまう。



祈りの歌のシーンは、大きな見せ場の一つだ。
感想でいきなり見せ場の話からするのもアレなのだけど、
あのシーンの、怒涛の大殺陣はもちろんのこと、ぶつかり合う台詞を何度頭の中で繰り返しただろう。


「だから人間は愛おしいんだと」
そう言う三蔵法師が本当に好きなんですよ。
人間って本当に勝手で、それはたぶん、偉いお坊さんの三蔵法師だって例にもれずで、なんなら偉いお坊さんだから尚更、深く深く落ちていってしまう。

ブラック西遊記を思い出す上で、どうしても四天王を思い出さずにはいられないんだけど、
「終わらない旅」を夢想する、焦がれるその姿に何回唸っただろう。
いなくならない、ずっと一緒にいられない。それを知れば知るほど、そうであれ、と祈ってしまうからしんどいなあと思う。
それを引っ括めて人間の愛おしさだという、その苦しみは全部自分が背負うという、もう、これを成立させてしまう大野さんが本当にめちゃくちゃこわい。すごい。
ブラック西遊記2020だと、より凄みが増していたというか
四面と一面の見え方の違いが何度だって嬉しくなっちゃうな。



配信で観たから、見返して感想を書けるはずなんだけど、
焼けるみたいにじりじりぐるぐると楽しんだものだから、どうしても、その感覚を忘れたくなくて、まだちょっと見返すのを躊躇ってしまう。いやアーカイブには期限があるので絶対見返すんだけど!(笑)
それでも、今夜だけはまだ「リアルタイム」で生の感触で触れたその思い出を抱き締めていたい。



X-QUESTさんの魅力は『生』である。
本当は、クエストさんに限らずきっとお芝居は、大抵『生』が魅力だと思う。同じ空間時間を共有して目の前で息づくことが、お芝居の大きな魅力だ。
だけど、クエストさんは殊更。
同じ空間を共有するからこそ、頰がぴりぴりするような熱量とか
すぐ近くで起こる風とか(初めて生で観た時に「風」が起きて、そんな漫画みたいなことあるんだ?!と目を丸くした時のことをずっと覚えてる)
そういう『生』を感じる時、ああクエストさんを観てんなあー!!!と熱くなる。


そういう意味で、今回、配信で観劇するとどんな風に感じるんだろうなと思った。ある意味、四面じゃないからそんなに違和感はないかな、とか、色んなことを考えてた。
実際、落ち着いて観れているという瞬間はあったんだけど、それでもなんだろう、「ああ、あそこに帰りたい」って切実に思って
だからなんか余計、あ、今、ある意味すげえ「生」を体感してるな、と思った。
なんだろう、なんか、なあなあでなんとなくで楽しいっていうより、もう心臓全部がぎゅるんぎゅるん動いて、あーーーここは私のすごく好きなあの場所だ!と否応がなく思って、
すげーーーー劇場が恋しくなった。お芝居が好きだ、とめちゃくちゃ思った。
それは、きっとたぶん、生で観たような心地がしたからなんだと思う。

エストさんを見始めた頃、ずっとブラック西遊記を観ていた時期があって、だからか、びっくりするくらい台詞を覚えてたんだけど
「リミッター解除!」はそんな中でもやっぱり、大好きな台詞なわけだ(というか、このお芝居観てあの台詞が印象に残らない人なんていないと思うんだけど)


本当に殺陣とかダンスとか、クエストさんの強みであるそれって、本当に「言葉」じゃ表現できないものを雄弁過ぎるくらいにガンガン表現してくれて、私はそれがめっちゃ好きなんですよ。
まさしく「リミッター解除」だと思う。言葉とか感情とか、理屈とかじゃなくて、
しかもあの速度と熱量でくるものだから、それはもう、リミッター解除じゃん…(ほらやっぱり言葉が追いついてない!)

ただなんかもう、言葉じゃなくてきっと「それ」でしか表現できないものなんだよなあ。
あー生きてるって、クエストさんの感想を書くたびに言ってる気がするんだけど、
例えば音楽を聴くと身体が動くとか
ご飯を食べると力が湧くとか、寝ると疲れがとれるとか、
なんだか、そういう「生きてる」ことを思い出す。

もう後半、知ってるのにずっとバカみたいにひとりで泣いてて、おうち劇場で良かった〜なんて言いながらずびずびずっとやってたんだけど、あー人間ってこんな綺麗なんだなあって何万回でも、思うし思いたい。クエストさん観て。
あーお芝居ってすげえじゃん、みたいな、あー人間が生きてるってすげえじゃん、みたいな、そんなことをこれからもずっと思ってたいな。



頭でっかちに育った私たちが、ただ生きてるんだと思い出す
その為に演劇はあるんじゃないか。


なんかちょっと大袈裟だけど、そんなことを本気で、私はクエストさんを観てる時は考えてる。


ブラック西遊記は、たったひとりと出逢えることは幸せだろうか、と考えるお芝居でもあるけど、
あとなんにだってなれる、と背中を押してもらえるような気がする。
いくつもある可能性の分岐を探しにいく。大丈夫、たぶん一人じゃない。いくつもの可能性たちが、すぐ近くで笑ってくれている。
リミッターを解除する為に必要なエネルギーを物凄く受け取ったからか、そう結構、本気で思ってる。