えす、えぬ、てぃ

好きなものの話をしよう

愛がなんだ

愛がなんだ、なんなんだよちくしょう、と呟きながら劇場を出た。

笑いたいような泣きたいような気持ちがありながらふわふわと歩く。

目の前で、見知らぬ女の子たちが「幸せになりたーい!」と叫んで、

思わず「あー幸せになりてぇな」って呟いてしまった。

 

あらすじ(公式サイトより)

猫背でひょろひょろのマモちゃんに出会い、恋に落ちた。その時から、テルコの世界はマモちゃん一色に染まり始める。会社の電話はとらないのに、マモちゃんからの着信には秒速で対応、呼び出されると残業もせずにさっさと退社。友達の助言も聞き流し、どこにいようと電話一本で駆け付け(あくまでさりげなく)、平日デートに誘われれば余裕で会社をぶっちぎり、クビ寸前。大好きだし、超幸せ。マモちゃん優しいし。だけど。マモちゃんは、テルコのことが好きじゃない・・・。

 

 

恋愛映画が大して好きではない(これ、パンバスの感想の時も書いたな)

好きではないというか、情緒として共感できない部分が多くなりがちできょとんとしてるうちに終わってしまうのであまり見ない。

きょとん、で終わればいいけど「なんでだよ」って苦しくなって2時間を過ごすこともある。

だけど、今泉監督が撮る「恋愛」は無性に居心地がよくて、観たいと思う。

 

そんなわけで、私の中でテルコやマモちゃんは苦手な分類の人たちに入る。

もう特にテルコはドストライクで苦手だ。

いやいやいや、お前はどこにいんだよ、と思ってしまう。

好きな人に全部を合わせられるということは、とても幸せなんだろうし、

馬鹿だなって思う。思うけど、やっぱり可愛いとも思うし、幸せなのかな、だろうな。

だからあの、公園の同僚と話すシーンがたまらなく好きだった。

 

愛でも、恋でもないというか

そんな名前をつけるのが野暮なんだと思う。野暮というか、そもそも、ないんだよね、テルコの中には。

マモちゃんが好きってこと以外、ないんだろうなぁって思う。

好き、好きなのか…?好き…?

混乱してきたぞ。

 

 

ナカハラくんが好きです。ナカハラくんのことを決して好きにはならない、葉子さんが好きです。

テルコの気持ちは分からなかったけど、ナカハラくんの気持ちは少しわかる気がした。

叶えたくない、なんてことはなくて、でもそもそも叶えるも叶えないもなくて。

当たり前みたいに自分の真ん中を占領されてるようなあの気持ちを知っている気がしたし「寂しいって時に毎回じゃなくてもいい、いつか、思い出してあ、ナカハラいるじゃんって思われたい」ってすごくすごくすごく、分かるよって思った。

恋に限った話ではなくて、私はよくそんなことを大切な人に想う気がした。

でもだから、終わりくらい自分で決めたいと思った彼が好きだったし

ナカハラくんが撮った写真が好きだった。

本当に好きだったな、あの写真。

 

葉子さんの「寂しい時くらいあるに決まってるじゃん、私のことなんだと思ってんの」もすごく、すごく、苦しくて。

 

不思議だよね、あんだけそれぞれ寂しいのになんで一緒にいれないんだろう。

お互いでいいやって幸せになれないんだろう。

好きな人が自分を好きになる、なんでだろうそんな簡単なことが一生かなわない気がする、とはハチクロの山田さんの言葉だけど

私はそれをずっと映画を観ながら考えてた。

でも例えば、マモちゃんがテルコのこと好きになってさ

その理由が「自分のことを自分以上に好きでいてくれるから」だったとして

それはマモちゃんどころか、テルコだって幸せになりやしないんだろうなと思う。

そういうことじゃないんだよね、だったらよかったのにな。

ただただ「幸せになりたいっすね」って気持ちでしかないのだ。

それでもなりたい、っていうくらいなのできっとそれがどこにもないかもしれないことをきっと私たちは知ってて、だから金麦を歩きながら飲むしかないし、時々はダサいラップを口ずさむんだと思う。

 

スミレさんがすごく好きなんだけど、きっとあれは、テルコ視点の物語だからで、

スミレさん視点で見るとさ、きっとおんなじような世界なのかもなぁって思う。

 

「マモちゃんが好きだということだけが、テルコのアイデンティティだった」という感想を読んでどきりとした。

覚えがあった。

好きなもののことを考えてそれについて話したり考えたりしながら毎日を私は生活している。

私にとっての色んな好きなものとテルコにとってのマモちゃんはきっと、おんなじなのだ。

それが一人の人に向けられているか不特定多数に向けられているかの違いだけで。

そう思うと、あそこまでいろんなものを投げ出してしまうテルコの気持ちはわかってしまうし、分かってしまうからなおさらしんどくなった。

お前はどこにいるんだよって、思ったけど、そもそも「自分」なんてものがある人間が一体どこに、どれくらいいるんだろう。

 

それが分からなくて、たまたま見つけられた「そうだったらいいな」っていう自分の中の感情を宝物みたいに大事にして、それを守るために他の何かをおろそかにすることもあったりして

そうやって、それでもひたすら、幸せになりてぇなって思ってる。

愛がなんなんだよちくしょう、と思う。

正解が分からない、分かるはずがないんだろうとも思う。

それでも、最後のテルコのシーンはなんだか笑えてしまえるような気がして、それが妙に好きでした。

 

愛がなんだってんだよ。