えす、えぬ、てぃ

お芝居の感想など

何事にも理由があって欲しい


小岩崎小企画の告知を見た時から私は妙にこの公演を楽しみにしていた。なんだか、無性に、ワクワクしてた。
うまくも言えないし、理由も分からないけど、別にそのどちらも別に必要ないか、と思う。


下北沢亭は役者さんとの距離が近い。目の前でお芝居が観られるから涙が徐々に目に薄い膜を張るのとか、そういうのが事細かに見えて、なんだか堪らない気持ちになる。


「白い象のような山並み」
核心の台詞はなかなか来ないんだけど、その台詞の端々にあるふたりの事情に心臓をぎゅっと掴まれたまま進む話。
台詞が核心に触れない分、仕草がすごく雄弁。貧乏揺すりとか、相手への目線とか。
あ、これ最前列で観れるのやばいな、と思った。それを1発目、このお話だからガツンと実感する感じ。
「あなたはもう私が面白いと思うことで面白いと思わないのね」って台詞(うろ覚えだけど)がとても綺麗で、切ない。嫌いなのね、とか終わりなのね、よりもよっぽど、ぽろぽろ落ちていく彼女の気持ちが迫るような。
太田さんがまた綺麗な方なんです。この方、初めてお芝居拝見したんだけど、作品で綺麗、の理由ががらりと変わる、佇まいの愛おしい方だな、と思った。
そして野口さんの苛々のお芝居が、ね、も、最前列で苦しいくらいだったんだけど、目が好きだなあ、とずっと思っていた。


「解体」
楽しみにしていた一人芝居!ヤッター!!
真田ともっくんがほんとにいたような気がする、振り返ると。
ラストの数分の小岩崎さんの美しさ…!
黒バックのシンプルな舞台だから、役者さんだけがダイレクトに飛び込んでくるのすっっっごく贅沢で最高だった。
未練あるやん、ってよぎったからこそ(いやもちろん、ありもするんだろうけど)ぽつり、と漏れた台詞に心がぎゅっと跳ねた。小岩崎さんの美しさは知るたびにぶん殴られるような途方に暮れるような気持ちになる。

 


「物騒な話」
大好き過ぎた。話が、もう、大好きすぎた。
殺しちゃったら忘れられなくなるよってのも、勿体ないよ、ってのも、あーーーーもーーーーーって叫びだしたくなるくらい愛おしかった。
竹岡さんが、竹岡さんがですよ(この方も初めてお芝居拝見した、初めまして、って最高に幸せ)神様、とか背骨直すやつで笑ったあとで、ラストのシャツのシーンが…!
短編集だからか、ほんと、ラストシーンの美しさがどの話も堪らなくて、これは凄えなあ、ってハッとした。
みんなで美味しく生姜焼き食べて欲しい。
彼はいなくなってしまったけど、素敵な友人ができた、というので、どうだろう。幸せってことにならないかな。

 


「殴る蹴る」
そして私はこの話でダダ泣きしてしまったんですよ。
この話、途中でお母さんとお腹の中の子の会話だ、って気付く仕掛けになってるじゃないですか、もう、気付いた瞬間から涙がダラダラ出て仕方なかった。止まらないんだもん、どうしたって。
小岩崎さんと野口さんの、優しいお芝居と静かさを堪能するお話。これはすごい。
お母さんの台詞が優しくて大好きだ。産まれる、ってずっと思ってて、思いながらこの公演が産まれて良かったなあって思って更にべそべそに泣いた。
空気感がたまらなく好きで、ふたりの不安への震えだったり目の潤みだったり、すごい、生で間近で観るにはとんでもなく、奇跡的に美しくて優しい。
このお話はあまりに優しくて心のポケットにしまってたい。居て欲しい、ポケットの中に。どうしようもなくなった時に出てきて欲しい。

 

 


「何事にも理由があって欲しい」
野口さん竹岡さんにノックアウトである。
そもそも、殴る蹴るのラストでまだ気持ちがぐちゃぐちゃだったのに、そのまま笑って笑って最後にヒッて締められた感じ。
短い話のテンポの良さとか瞬発感がまず観てて楽しいな、ったのが全体の感想なんだけど、そしてでも地に足がついてて、ひとつひとつがじわじわ浸み出してく感じ。伝わってください。
「分からないからこうして調書をとって聞いてるんです」「でも本当は薄々どこかで分かってるんです、自分で考えて感じたことじゃないと意味ないって」
どこまでもうろ覚えで申し訳ないのですが、小岩崎さんの描く台詞の胸の奥にいきなり飛び込んでくる響きはなんなのか。
私にとってお芝居を観る、のは、調書なのかもな、としとしとと切なくなった。
彼らが、それでも調書を取り続けるのを見ながら、あー私も、お芝居見続けよう、と思った。

 


昔、母に連れられた喫茶店に3000円のコーヒーがあった。それは何となく私の憧れだった。そこで飲むふつうのコーヒーが、まず、とんでもなく美味しかったので。いつか、あのコーヒーを買うぞ、買って飲んで幸せになるぞ、と思って居た。企んでいた。
途中、ぐるぐるとお芝居の空気に飲まれながら私はあのコーヒーのことを思い出した。図らずも、今回のお芝居は3500円、うち500円はドリンク代なので、実質、3000円なのだ。
あ、こんな素敵な味なのかもしれない。と、ぼんやり思って、今度実家に帰ったらあの喫茶店に行けたらいいな、と思った。
ひとりきりの贅沢というか、誰かが大切にしているものに触れさせてもらえる幸せはとんでもなく、優しかったので。