えす、えぬ、てぃ

好きなものの話をしよう

万引き家族

本当じゃなきゃ、というよりも、正しくないと、ダメなのか。

 

 


万引きと祖母の年金を生活の糧として生きる奇妙な家族。
ひとり部屋で震える少女を、娘として招き入れ奇妙な社会から「ズレた」家族は生活を続ける。
だけど、そんな生活は次第に軋み始める。

 


いっそ、悪意なのではないかと思えるほど丁寧に描かれた生活の描写がそこここにあった。
四季とか、昔からしてたこと、とか、家族とか。
押入れの中の秘密基地と、そこに並ぶ宝物たち。怪我を手当てしてくれるお婆ちゃん、お母さんの机、けらけらと楽しそうなお父ちゃんと素っ気ないけど家族のそばにいるお姉ちゃん。
その、どこかで見たような必ず実家のどこかの景色にだぶるようなそれが本当にどこもかしこも懐かしくて愛おしくて。
なのに、妙に、ちぐはぐだった。


それは、彼らに付き纏ってる貧乏や犯罪、「底辺」と呼ばれてしまいそうな空気感のせいなのかもしれなかったし
少女を連れてきた、というここから幸せなままにいれるかどうか、の不安のせいなのかもしれなかった。


だけど、それでも、そこにある生活は暖かく人肌の温度が匂いが常にあったのだ。
あと、それがこんなに染み込んだのが、たぶん、友人の15とも話していたんだけど全部が見えたわけじゃ知れたわけじゃなかったことだった。


なんでりんが虐待されてたのか、
アキちゃんの家族がなんでアキちゃんにああなのか
夫婦のこれまでとか
翔太のここにきてからすぐのことや
お婆ちゃんが本当はどうしたかったのか
とか

 


心の中のことは、特に。
大袈裟に分かりやすく台詞やましてやモノローグで語られることはなくて、私はその表情とか行動とか、そういう全部をただただ目を見開いて見て、想像してた。
だから、りんを抱き締めたあのシーンが大好きだった。
好きだから叩くのなんて嘘だよ愛してるから叩くなんて嘘。本当に愛してるならね、こうするの。抱き締めて、なんなら泣きながら頰をすり合わせるその仕草に何一つ嘘がなくて、それを見守る家族はあたたかくて、それも、なんでしょう、優しくしたいから、とかじゃないんだよ。
そうしたいから、そうなる。
そこにその人が良い人が悪い人か、何して生きてるか、とかそうじゃなくて、そうとして、存在してたと思った。
そこはとても愛おしい場所だと思った。


棄てたのを拾った、と言った。棄てられてたから拾った、と死体遺棄、でもその前に棄てた人がほかにいるんじゃないですか。

 


命は重たいだとかなんだとか言うけど、本当に、世の中、棄てられていく人たちのなんと多いことか。
棄てたのは、棄てられたのは、誰なんだろう。
私はそう考えて、泣きたくなる。
ああして映画を観ていた私は「棄てられてない」から映画という娯楽を享受できてるのかな、とふと観てる途中過ぎった。だけど、本当に、ただの一度も「棄てられた」ことは「棄てた」ことはなかったか。

 


これからも、棄てたりしないと私は信代さんの目を見て、言えるだろうか。

 


ちょっとズレた感想かもしれないのだけど、


万引き家族、というタイトルにこんなタイトルの映画が賞を獲ったら日本に対してネガティブなイメージがつくなんて言葉を幾つか聞いたけど、私の知る日本は5歳の子どもを衰弱させてそのまま殺しちゃうような、死にたくて他人を無差別に殺せるような日本じゃないか、と思ってしまった。

だけど、それが嫌で、そうなんだけど、それは正しいのかもしれないけど、そうじゃなくて、と思う。本当では、あるんだけど。

目を逸らしたい、ってことだけじゃなくて。


話を、万引き家族に戻す。


彼らは正しくはなかった、というのは犯罪とかなんか、そういう意味で分かる。
万引きとか、盗みとか。
たぶん、翔太を拾ったのも盗もうとしてた時だと思うし翔太を置いて逃げようとしたし、お婆ちゃんがアキをすませてたのはいつか何かあったらお金のことも考えてたのかもしれなかった。
(ただアキについてはいつか来たかもしれない、の仮定の話だ。お婆ちゃんはたしかにお金を貰っていたけどあれはあくまで、家族を母親がお婆ちゃんから奪ったことへの罪悪感から勝手に息子が払っていたお金、だよね?アキは海外に行ってる、と嘘を重ねてたのはあの両親はアキがどこで、何をしてるか、を知らないよね?と、思う。ちがうのかな)


だけど、正しくなければ全部嘘になるのか。

 


お店にきてた青年が、抱き締められたとき、あ、あ、あ、って言うじゃないですか。
それをアキは、うん、あったかいね、って相槌を打つじゃないですか。
私は、あれ、ありがとうって言いたかったんじゃないか、って思ってたから、あ、あったかい、かってなったんですよ。
あいしてる、だって、あ、だし。
あ、って色んな音、思い、言葉に繋がる最初の音なんだよ。
でも、あったかい、もきっと、そうで、あの時青年はあったかいね、もありがとう、もあいしてる、も全部言いたくて、そこからアキが拾った言葉があったかいね、だったんじゃないか。
それはあったかい、を拾ったからありがとうやあいしてる、が間違いになるわけじゃないでしょう。


アキの親がお婆ちゃんに家族を奪ってごめんね、で払ったお金は3万円。
お婆ちゃんが隠していたお金を山分けしたら、1人3万円。
家族のそれぞれの価値はひとり、図らずも偶然に3万円、という安いんだか、高いんだか分からない金額がついてしまった。

 


だけど、あの花火を見た、お鍋を食べた、海に行き笑った、家族がそれぞれ3万円払えば手に入るのかって言われたらそんな簡単な話じゃないわけで。
3万円、なんて価値じゃないんだよ。
でも、3万円にもせず棄てた、人間がいたし、いるんだよ。


犯罪でしか、繋がれなかった家族、っていうメイキングの言葉にはっとしたんだけど
同時に、じゃあ3万円とか犯罪とかそんなもんだけであなたたち繋がってたわけじゃないでしょ、と私は色んなシーンを思い出して泣いてる。
信代さんの、絆、とかと照れ臭そうに冗談ぽく言った言葉を思い出してる。選んだんだよ。選び方や、手に入れ方は一旦さておいとこうよ。選んだ、それは、間違いなく、すげえことじゃんか。

 


アキが、見た空っぽの部屋やりんが見ていた誰もこない道を思う。
私は、一度どうしようもない幸せを味わったら、それだけで人は生きていけるし生きていけてしまう、と思ってるんだけど(それは悲しくて幸せなことだと思う)
りんやアキはそこに何を見たんだろう。
翔太は迎えにきた「お父さん」と駐車場でけらけら笑い、走り回った時のことを思い出すだろうか。

 

 

正しくなきゃ、本当じゃなきゃダメですか。

それは誰が決めるんですか。

一個しかないんですか。

 

 

 

分からないけど、

私は、あの色も景色も、いくつも折り重ねて、覚えていく。